浸込しみこ)” の例文
目と口に浸込しみこんで、中にいた器械の図などは、ずッしりくろがねたてのように洋燈ランプの前にあらわでて、絵の硝子がらすばっと光った。
国貞えがく (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
沢山の肉を焼く時にはその味を浸込しみこませるため鉄串かなぐしはしでポツポツと肉へあなを明けてもようございます。最初から一時間と二十分位焼けば豚のロースが出来ます。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
明日の朝の八時はいつもの通り強い日が空にも山にも港にも一面に輝いていた。馬車をてて山にかかったときなどは、その強い日の光が毛孔けあなから総身そうしん浸込しみこむように空気が澄徹ちょうてつしていた。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
あいちやんは當惑たうわくして、らず/\衣嚢ポケツト片手かたてれ、乾菓子ひぐわしはこ取出とりだし、(さいは鹹水しほみづ其中そのなか浸込しみこんでませんでした)褒美はうびとして周圍しうゐのものにのこらずれをわたしてやりました。丁度ちやうど一個ひとつ一片ひとかけづゝ
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
陰気な、鈍い、濁った——厭果あきはてた五月雨の、宵の内に星が見えて、寝覚にまた糠雨ぬかあめの、その点滴したたりびた畳に浸込しみこむ時の——心細い、陰気でうんざりとなる気勢けはいである。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
狭い町の、ものの気勢けはいにも暗い軒下を、からころ、からころ、駒下駄こまげたの音が、土間に浸込しみこむように響いて来る。……と直ぐその足許あしもとくぐるように、按摩の笛が寂しく聞える。
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
かれあわたゞしくまどひらいて、呼吸いきのありたけをくちから吐出はきだすがごとくにつきあふぐ、と澄切すみきつたやまこしに、一幅ひとはゞのむら尾花をばなのこして、室内しつないけむりく。それがいは浸込しみこんで次第しだいえる。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)