海藻かいそう)” の例文
肉ににおいのあるかめは肉食をして、魚をたべているかめで、正覚坊は海藻かいそうをたべているから、においがないのだ。
無人島に生きる十六人 (新字新仮名) / 須川邦彦(著)
それは水中に長く沈んでいた男の顔で、ふくれて、白ちゃけて、その濡れしおれた髪には海藻かいそうがからみついていた。
兄さんはいそへ打ち上げられた昆布こぶだか若布わかめだか、名も知れない海藻かいそうの間を構わずけ廻りました。それからまた私の立って見ている所へ帰って来ました。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
いくつものとうげえて海藻かいそうの〔数文字空白〕をせた馬にはこばれて来たてんぐさも四角に切られておぼろにひかった。嘉吉かきち子供こどものようにはしをとりはじめた。
十六日 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
家も街路樹もあいまいな乳色のなかに沈み、風がふくたびに海藻かいそうのようにゆらめくのだった。新宿の裏町を、号外配達が鈴を鳴らしながら泳ぎまわっていた。
金狼 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
僕を前の方へ案内し「ここから海の中が見えるんです。よくごらんなさい。魚や海藻かいそうだけではなく、お客さまをおどろかす物がなんか見えるはずですから……」
海底都市 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ズンズンとうしおが高まって来て、膝の下の海藻かいそうを洗い漂わしているのも心付かずに、黄金色こがねいろ滝浪たきなみを浴びながら一心に祈っている、その姿の崇高けだかさ…………まぶしさ…………。
瓶詰地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
ゆさ/\とやわらかなえそうな若葉をかぶった白樫しらかし瑞枝みずえ、杉は灰緑かいりょく海藻かいそうめいた新芽しんめ簇立むらだて、赤松あかまつあか黒松くろまつは白っぽい小蝋燭ころうそくの様な心芽しんめをつい/\と枝の梢毎うらごとに立て
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
そうしてその周囲には黒く染めた胡桃皮くるみかわを毛のように長くらします。時としては「すごも」と呼ぶ海藻かいそうを黒髪の如くなびかせます。背から腰にかけては丈夫なしなの皮を総々ふさふさと用います。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
行く手には巨大な海藻かいそうの林があった。幅一尺も二尺もあるコンブに似た植物が、巨獣のたてがみのように、無数にゆらいでいた。人魚たちは、そのぬるぬるしたの林をかきわけて進んだ。
影男 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
君が君の妹を女たちの群れの中から見つけ出して、せわしく目を見かわし、言葉をかわす暇もなく、浜の上には乱暴に踏み荒された砂と、海藻かいそうと小魚とが砂まみれになって残っているばかりだ。
生まれいずる悩み (新字新仮名) / 有島武郎(著)
所々ところどころうつくしい色彩いろどり貝殻かいがらにおいのつよ海藻かいそうやらがちらばっているのです。
濡髪ぬれがみ長き海藻かいそうや、珊瑚、海胆うにこけまでも
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
窓から外へ、さっとながれだした黄色い光が、すこしずつうごいて、海藻かいそうの林をてらしつけます。
豆潜水艇の行方 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そしてそれっきりなみはもうべつのことばで何べんもいて来てはすなをたててさびしくにごり、砂をなめらかなかがみのようにして引いて行っては一きれの海藻かいそうをただよわせたのです。
サガレンと八月 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
おみちはすぐ台所だいどころの方へ立って行って手早くもち海藻かいそうとささげをぜんをこしらえて来て
十六日 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
その植物も、陸の上に生えているものではなく、海水の中に発生した一種の海藻かいそうだったんだ。その海藻のあるものが、ふしぎな機会にめぐまれて、自分で動きだした。それからだ。
宇宙の迷子 (新字新仮名) / 海野十三(著)
みさきから岬へ、岩礁がんしょうから岩礁へ、海藻かいそうを押葉にしたり、岩石の標本をとったり、古い洞穴や模型的な地形を写真やスケッチにとったり、そしてそれを次々に荷造りして役所へ送りながら
ポラーノの広場 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
「あそこですよ。今、たい大群たいぐんが下りていった海藻かいそうの林のすぐ右ですよ」
海底都市 (新字新仮名) / 海野十三(著)