此方このかた)” の例文
十年程此方このかた、時々、子どもの謡ふのを聞く。軍人や、洋服を着た学生を見ると「へえたいさん。ちんぽと喇叭と替へてんか」と言ふ。
三郷巷談 (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
白蓮さんは伝右衛門氏のことを、此方このかたが、此方がといわれるので、何となく御主人へ対して気の毒な気がして返事がしにくかった。
柳原燁子(白蓮) (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
君たちと一緒になってから此方このかた、ずいぶんたくさん人の死ぬのを見て来たからね。だが一つ二つ君たちに言うことがある。
それを何事とも知らず無性にうれしがって御受けした此方このかた人は皆死ぬという由(ベレゴーの『シェー・レー・アシャンチー』一九〇六年板一九八頁)
二人は知り合になってから此方このかた、今のような心を新たにするような寂しさを味わった事はなかった。折々二人は顔を見合せて、妙な心持をしている。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
先生、此方このかたが御面会を願われます、先生、お使に行って参りましょう——一向可笑おかしゅうない。先生というて貰おう。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
「運転手の過失もありますが、どうも此方このかたが自分で扉を、開けたやうな形跡もあるのです。扉さへひらかなかつたら、死ぬやうなことはなかつたと思ひます。」
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
娘時代から此方このかた十何年来たまっている話題の数々を考えていたのであったが、さて、その日になって、泊りに来てみると、姉はこの間じゅうの、———と云うよりは
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
数週間此方このかたセルギウスは思案にくれてゐる。今のやうな地位に自分がなつたのは、果して正しい行であらうかと思案するのである。勿論これは故意にしたのではない。
「オヽ、梅子」とお加女は顧み「お前さんはだおつに御目にかゝるんでしたネ、此方このかた阿父おとつさんの一方ならぬ御厚情にあづかる、海軍の松島様で——御不礼ごぶれい無い様に御挨拶ごあいさつを」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
狐がお屋敷のとりをとったんでげすって。御維新此方このかたア、物騒でげすよ。お稲荷様も御扶持放ごふちばなれで、油揚のにおい一つかげねえもんだから、お屋敷へ迷込んだげす。わけわせん。
(新字新仮名) / 永井荷風(著)
ところが一二ねん此方このかたまつた自他じた差違さゐ無頓着むとんぢやくになつて、自分じぶん自分じぶんやううまいたもの、さきさきやううんつてなかたもの、兩方共りやうはうともはじめから別種類べつしゆるゐ人間にんげんだから
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「そうだ其方が君の為になる。金ならいくらでも出すんだからね——君は此方このかたを知らないね。有名な園原雪枝さんだよ……そうして僕は酒井という者だ。酒井男爵の次男のね……」
温室の恋 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
近頃頻々ひんぴんとしておこなはれる、たちの惡い押込、強盜、家後切やじりきりは、どう考へても一二年此方このかたのさばり返つた十二支組の仕業に相違ありませんが、その十二支組の仲間と思はれるのが、斬られたり
ねん此方このかた地方自治體ちはうじちたいはやう/\ゆたかになつたので、其管下そのくわんか病院びやうゐん設立たてられるまで、年々ねん/\三百ゑんづつを町立病院ちやうりつびやうゐん補助金ほじよきんとしてこととなり、病院びやうゐんではれがため醫員いゐん一人ひとりことさだめられた。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
治承三年五月、熊野參籠の此方このかた、日に増しおもる小松殿の病氣いたつき
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
「運転手の過失もありますが、どうも此方このかたが自分で扉を、開けたような形跡もあるのです。扉さえひらかなかったら、死ぬようなことはなかったと思います。」
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
それで、もし船室昇降口室コムパニヨンにあの海図がなかったなら、私たちは、その島が海中から生じてから此方このかたそこにかつて碇泊した最初の者であると思ったかも知れなかった。
「あのね、此方このかたはね、学生さんなのよ、商業学校の学生さんなのよ。そうしてオリンピックの選手なんですって、ですから心臓はお強いんですわ。ね、貴郎いらっしゃいよ。そして手伝って下さいよ」
人間製造 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
此方このかたが何さ、阿父様おとうさまからお話があった古屋さんの何さ。」
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
「あら、一寸ちょっと此方このかた如何どうかなすったの?」
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
なくしてから此方このかたよ。