有象無象うぞうむぞう)” の例文
「君と二人で店の有象無象うぞうむぞうに勤勉の見本を示すんだそうだが、僕はうもり切れそうもない。頭がガン/\する。あゝ/\/\」
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
すべてのやり口が、和主わぬしのは、取ッちがっておる。用でもない郡司や近郷の有象無象うぞうむぞうを、帰国披露目に、豊田へ招いたりして。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
けれども、お蝶らしい女を発見することはできないで、腐れた肉をむさぼ有象無象うぞうむぞうの浅ましいむくろを、まざまざと見せつけられたに過ぎません。
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
さん、有象無象うぞうむぞうが声を納めて、しんみりとしたろうじゃねえか。戦だね。泣くやら、はははははは、笑うやら、はははは。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
イエスは有象無象うぞうむぞうの妨害をできるだけ避けて、あまねく、しかも静かに福音を宣べようと思われたのに、一方にはパリサイ人の妨害が起こり
そこで彼は、さっきからこの有象無象うぞうむぞうとは別行動をとり、ウィンチにもたれて、こっちをじろじろしていた一人の、たくましい水夫の前にちかづき
火薬船 (新字新仮名) / 海野十三(著)
絶対不敗の名人とか実力十一段とか、伝説的な評価が我々素人の有象無象うぞうむぞうに軽率に盲信される、自らひそかにたのむところのある専門棋士には口惜しい筈で
散る日本 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
寧ろ有象無象うぞうむぞう神社へ神社へと雲のように押しかけて行く朝鮮人達が憎くてならない位だった。文素玉は身の毛もよだつようにぞっとして身をすくめたと思うと
天馬 (新字新仮名) / 金史良(著)
この文学会は後には次第に有象無象うぞうむぞうを狩集めて結局文人特有の放肆ほうし乱脈に堕して二、三年後に自然的に解体したが、初めは最も選ばれたる少数者の集団であって
美妙斎美妙 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
驚いた有象無象うぞうむぞう雪崩なだれ落ちるように外へ飛出してしまって、後に残ったのは、お雛、お染、友二郎、六兵衛、それに本店から駆け付けた手代のうち、一番縁故の深い
その中泉という老耄ろうもうの画伯と、それから中泉のアトリエに通っている若い研究生たち、また草田の家に出入りしている有象無象うぞうむぞう、寄ってたかって夫人の画を褒めちぎって
水仙 (新字新仮名) / 太宰治(著)
しも彼女が再び雑魚寝をしようなどと云い出したら、自分は何と云うべきだろうか? この後自分は、彼女に対し、彼女に寄りつく浜田や熊谷や、その他の有象無象うぞうむぞうに対し
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
関白の威勢や、三好秀次や浅野長政や前田利家や徳川家康や、其他の有象無象うぞうむぞう等の信書や言語が何を云って来たからと云って、とりの羽音、あぶの羽音だ。そんな事に動く根性骨では無い。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
ありとあらゆる有象無象うぞうむぞうが集まっていたが、みな酔っ払って、歌をうたっていた。
居士の盛名が強大であるに連れて我らのような有象無象うぞうむぞうも共に有名になって来た。
子規居士と余 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
憂愁のとばり深く垂れ込めた博士邸には、連日この問題に興味を抱くあらゆる有象無象うぞうむぞうたちが引っ切りなしに押しよせて、憂愁のうちに旅装を整えている博士を悩ませ切っていたのであろう。
令嬢エミーラの日記 (新字新仮名) / 橘外男(著)
有象無象うぞうむぞうの大群衆を生かすか殺すか彼一人の頭にかかっている。これは眼前の事実であろうか、夢であろうか。とにかく、事はあまりに重大すぎて想像に伴なう実感が梶には起らなかった。
微笑 (新字新仮名) / 横光利一(著)
そうして、これらのしゅじゅの感情の上に、この世の中の有象無象うぞうむぞうが一つの憐れなたましいを墓に追いやるために、こんなにも騒いでいるのかという、ぼんやりした弱い驚きの感じが横たわっている。
まして有象無象うぞうむぞうのかげぐちなぞが、生涯をたたきつけて賭けている人間にとって、何の益がありさまたげがあろう、お逢いして目もくらやみ、心もつかれはてた境に早々に行きつきたいだけでござる。
花桐 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
有象無象うぞうむぞうから先にやってしまえ! という腹。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
彼の金持であることがたたって、彼の行く所、彼の云う声が、有象無象うぞうむぞうを呼び集めて、型のごとく、お大尽遊びの方程式にまってしまった。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
同僚の有象無象うぞうむぞうとはいささせんことにするというところを印象づける積りだった。続いて人生問題から生活問題へ移った。話の切っかけが丁度好かったから
ロマンスと縁談 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
これを弟子に発見されて有象無象うぞうむぞうにとりかこまれて詰問を受け、聖人でも夢と生理は致し方がないものだとフロイド博士に殴られそうなことを言って澄している。
勉強記 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
自分が多くの有象無象うぞうむぞうの生きんがための犠牲に使われ、ダシに使われているのだ、英雄豪傑なんていうものと、愚民衆俗というやつの関係が、いつもそれなんでね。
大菩薩峠:35 胆吹の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
阿能や大亀や三平などの、有象無象うぞうむぞうに、余りにも深い悲しい胸のうちを訴えてみる気にもなれないが、かの女はつねに、自分へ向っていっていた。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「早くう言えば宜いのに。今の連中は勝手にやって来たんだ。有象無象うぞうむぞうが詰めかけて困るんだよ」
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
有象無象うぞうむぞうをよく生かしてやらんがために事を企てているが、ここに来る奴、集まる奴にロクな奴はない! いや、ここに来る奴、集まる奴にロクな奴がないのではない
大菩薩峠:38 農奴の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
いや、それとて、日野殿以外には、お洩らしあるな。お師が、第一のお嫌いは、世間の有象無象うぞうむぞうに自分の存在を
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
尤も今のところ然ういう篤志家は滅多にないから、このぼろいこと本位の大都会は市内に収容し切れないほど有象無象うぞうむぞうを惹きつける。小川さんもその有象か無象の一人だ。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
その上人をめあてに集まる近国の有象無象うぞうむぞうども、そこに一つの仕組みがあるんだ、上人は上人でお十念じゅうねんを授けている間に、こちとらはこちとらで自分の宗旨を弘める分のことよ
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
肩にかけて行け。そしてな、役にも立たねえ、あとの有象無象うぞうむぞうは、もう用はねえからと追い返してしまうがいい
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
つまり、どの幕もどの幕も、海土蔵が一人もうけをやるように出来ているので、有象無象うぞうむぞうをいいかげん増長させておいて、ここぞというところで撫斬なでぎりにしてしまうのだから、見物は無性むしょうに喜ぶ。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「卓ちゃん、有象無象うぞうむぞうが集まったね。ウヨ/\している」
村の成功者 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
幕府崩壊のあとの、有象無象うぞうむぞうの策動やら、浮動分子ふどうぶんし誘降ゆうこうやら、探りやら抑えやら、いろいろな裏面症状にたいして、この一毒をもって諸〻もろもろの毒素を制して来たものである。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
呂宋兵衛るそんべえこそ、多少蛮流ばんりゅう幻術げんじゅつ心得こころえておりますが、他の有象無象うぞうむぞうは、みなたかの知れた野武士のぶし浮浪人ふろうにんりあつまり、きっとけちらしてごらんに入れましょうから、お心やすくおぼしめせ
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
古典には、この賊徒なるものをたんに「——近江、伊賀、鈴鹿すずか、この界隈かいわいまでの強盗山賊あぶれども」としかその質を言っていないが、はたしてそんな有象無象うぞうむぞう手輩てあいばかりであったろうか。
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
源氏や平家の有象無象うぞうむぞうが、討ッつ討たれつ、双六すごろくさいみてえに天下の土地をあばき合っていたころには、こんな野原にも、金目なよろいや太刀をいた死骸が野良犬に食わせて捨てられてあったし
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「あそこは、ずんと茶屋の格がようございますからな。——初めから、若先生も、蓬の寮へお気が向いていることは分っていたのでござるが、何せい、この有象無象うぞうむぞうがくッついて来たのでは滅茶ですから、わざと、この安茶屋へ寄ったので」
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)