もう)” の例文
「それはあなたの方がよく分っていらっしゃるはずですがね。私はただもう少し先まで御出おでなさい、そのほうが御為だからと申し上げるまでです」
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
切て駈付かけつけ來り兩人にて又々彼方此方かなたこなたと尋ね廻り地内の鎭守稻荷堂或ひは薪部屋まきべや物置等ものおきとうのこらずさがしけれ共かげだに見えざれば掃部は不審いぶかりもう此上は和尚を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
君等の耳にはもう、トックの昔に這入っている事と思っていたんだが……秘密にすべく余りに事件が大き過ぎるからね。
爆弾太平記 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
わたくしは上陸したその瞬間から唯物珍らしいというよりも、何やらもう少し深刻な感激に打たれていたのであった。
十九の秋 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
もう一度盲戸めくらどを今度は力一杯に推して見た、未だ盲戸は仲々開かぬに、怪しい姿はソロソロと寝台を下り、余の傍へ寄って来るが併し足音のする所を見ると幽霊では無さ相だ
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
縫「これで先方むこうじゃアもう少し値売ねうりをしたいように申して居りますが、此の書付でと申すので」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
其頃そのころ着手きての無いインパネスのもう一倍いちばいそでみじかいのをて雑誌を持つてまわる、わたしまたむらさきヅボンといはれて、柳原やなぎはら仕入しいれ染返そめかへしこんヘルだから、日常ひなたに出ると紫色むらさきいろに見えるやつ穿いて
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
と二ぎやうもうみながら、つひ、ぎんなべ片袖かたそでおほふてはいつた。
銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
此方は増々ます/\聲ふるはせもう此上このうへは爭ふより今にをつとが歸りなば直樣すぐさま分る事柄なり金の出所は市之丞より受取たるに相違さうゐなしと終には互に大音だいおんあげ云爭いひあらそひて居たりけり
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
あなた、恐入りますが、もう少々もうひとツ先きの釣革に願います。込み合いますから御懐中物を御用心。動きます。ただ今お乗り換えの方は切符を拝見致します。
深川の唄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
自分は、自分にもっと不親切にして構わないから、兄の方にはもう少し優しくしてくれろと、頼むつもりで嫂の眼を見た時、また急に自分のあまいのに気がついた。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
次に又もう一本同じ位の毛をお抜なさい、イエナニ何本も抜には及びません唯二本で試験の出来る事ですからわずかもう一本です、爾々そう/\、今度は其毛を前の毛とは反対あべこべに根を左り向け末を右向て
無惨 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
見て打驚うちおどろきて居たる時におせん穩當しとやかに昌次郎に向ひ昨日一寸ちよつと御目にかゝり金子百五十兩御渡し申せし彌太八樣もう私しかまゐりし上はあらそひ給ふもえきなきこと早々金子を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
良人や男連には眼も呉れず饒舌しやべつて居る人の妻を見ても、よしや、もう少し極端な例に接しても、私は寧ろ喜びます、少くとも彼等は楽しんで居る、遊んで居る、幸福である。
一月一日 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
日本人に生れたからにはもう一度あの富士山を子供の時のやうな心持で神々かう/″\しく打仰いで見たいと思ひながらそれが最う不可能になつてしまつたのかと思ふと情ない氣がしてならなかつたのである。
新帰朝者日記 (旧字旧仮名) / 永井荷風(著)