ぬく)” の例文
だが、人の氣はひであつたものは午後から西づいた日あしのぬくもりが、この部屋に毎日當つてゐる一つの原因でもあるやうに思へた。
はるあはれ (旧字旧仮名) / 室生犀星(著)
猟犬どもの暴れもがく声とへやぬくもりとでそそられた或る情慾が、だんだん体内みうちにひろがって来た。で、彼は夫人の肩を軽く押えて
犬舎 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
今私達があけた戸口から外の寒い空気が、いいあんばいにぬくまつてゐた二人の女のはだへをさした。なげしの上の神棚の灯がちよつとまたたいた。
二黒の巳 (新字旧仮名) / 平出修(著)
「ではマアちょっと家内なかへはいり、少しお休みなさりませ。ぬくもったら直るでござりましょう」つい勧めたものである。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
が、そのような宵節句におまりの天候と云うものは、また妙に、人肌やぬくもりが恋しくなるものである。
絶景万国博覧会 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
平中は唯うなづいた。侍従は二人のしとねの上に、匂の好いぬくみを残した儘、そつと其処を立つて行つた。
好色 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
さて炭団埋めたる火鉢の灰を、かけた上にもかけ直して、ほんのりとぬくい位の上加減と、手つきばかりは上品にのんびりとその上にかざし、またしげしげとその顔を見て
心の鬼 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
が、それはまだ我慢もできるとして、どうにもこうにも我慢のできないのは、少し寝床の中がぬくまるとともに、のみだかしらみだか、ザワザワザワザワと体じゅうを刺し廻るのだ。
世間師 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
袂からマッチを出して摺ると、今の先きまで人が居たやうで、神殿の遷座式せんざしきの時に使ふ手燭の雪洞ぼんぼりには、蝋燭が半分ほど燃えさして、吹き消した後のぬくみがありさうに見えた。
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
はひつてよう……いま前途ゆきさきいたのに、道草みちぐさをするは、とがさして、燒芋屋やきいもやまへ振返ふりかへると、わたしをしへたとき見返みかへつた、のまゝに、そといて、こくり/\とぬくとさうな懷手ふところで居睡ゐねむりする。
松の葉 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
さりとては胴慾どうよくな男め、生餌いきえ食うたかさえぬくめ鳥は許す者を。
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
雀子は身ぬちぬくきか霰の玉こまごまと消居けをり羽ににじみつつ
雀の卵 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
ほたぬくまっているのも何か勿体もったいない気がするのう」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
『いや、子供負うてるとぬくい暖い!』
「きょうはぬくいけになあ」
名君忠之 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
ぬくいな
十五夜お月さん (旧字旧仮名) / 野口雨情(著)
雪の夜にたまたま遇へる白き牛の荒々し息のりのぬくとさ
雀の卵 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
「おお。ぬくい暖い」
眼を開く (新字新仮名) / 夢野久作(著)
榛名富士あかく日あたりぬくしとふ鬢櫛山びんぐしやまは早や白しとふ
黒檜 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
現身うつしみの白のかけろが今朝し産みしぬくき卵をひとつ割りたり
雀の卵 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)