拭込ふきこ)” の例文
……宿へ着いたのは、まだ日のたかいうちだったのです。下座敷の十畳、次に六畳の離れづくりで、広い縁は、滑るくらい拭込ふきこんでありました。
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
妾宅はあがかまちの二畳を入れて僅か四間よまほどしかない古びた借家しゃくやであるが、拭込ふきこんだ表の格子戸こうしど家内かない障子しょうじ唐紙からかみとは、今の職人の請負うけおい仕事を嫌い、先頃さきごろまだ吉原よしわらの焼けない時分
妾宅 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
年頃拭込ふきこんだ板敷いたじきが向側の窓の明障子あかりしやうじの光線で水を流した様に光る。
蓬生 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
かや軒端のきばに鳥の声、というわびしいのであるが、お雪が、朝、晩、花売に市へ行く、出際と、帰ってからと、二度ずつ襷懸たすきがけで拭込ふきこむので、朽目くちめほこりたまらず
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ただ一つけやき如輪木じょりんぼくちりも置かず、拭込ふきこんで、あの黒水晶のような鏨箪笥たがねだんす、何千本か艶々つやつやと透通るような中から、抽斗ひきだしを開けて取ろうとして——(片目じゃろうね。)——ッて天狗様が
「構っちゃ可厭いやだよ。」とと茶の間を抜ける時、ふすまけんの上を渡って、二階の階子段はしごだんゆるかかる、拭込ふきこんだ大戸棚おおとだなの前で、いれちがいになって、女房は店の方へ、ばたばたと後退あとずさりに退すさった。
国貞えがく (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
見透みとほしうら小庭こにはもなく、すぐ隣屋となり物置ものおきで、此處こゝにも犇々ひし/\材木ざいもく建重たてかさねてあるから、薄暗うすぐらなかに、鮮麗あざやかその淺黄あさぎ手絡てがら片頬かたほしろいのとが、拭込ふきこむだはしらうつつて、トると露草つゆぐさいたやうで
三尺角 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
見透みとおしの裏は小庭こにわもなく、すぐ隣屋となり物置ものおきで、此処ここにも犇々ひしひしと材木が建重たてかさねてあるから、薄暗い中に、鮮麗あざやかなその浅黄の手絡と片頬かたほの白いのとが、拭込ふきこんだ柱に映って、ト見ると露草つゆぐさが咲いたようで
三尺角 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
客は一統、女中たち男衆おとこしゅまで、こぞって式台に立ったのが、左右に分れて、妙に隅を取って、吹溜ふきだまりのようにかさなり合う。真中まんなか拭込ふきこんだ大廊下が通って、奥に、霞へ架けた反橋そりはしが庭のもみじに燃えた。
怨霊借用 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ひく太鼓橋たいこばしわたるくらゐ、拭込ふきこんだ板敷いたじきしかもつるりとすべる。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)