打笑うちゑ)” の例文
エリスは打笑うちゑみつゝこれをゆびさして、「何とか見玉ふ、この心がまへを。」といひつゝ一つの木綿ぎれを取上ぐるを見れば襁褓むつきなりき。
舞姫 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
物は言はで打笑うちゑめる富山のあぎといよいよひろがれり。早くもその意を得てや破顔はがんせるあるじの目は、すすき切疵きりきずの如くほとほと有か無きかになりぬ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
思へば悟道ごだうの末も稍〻やゝ頼もしく、風白む窓に、傾く月をさしまねきてひやゝかに打笑うちゑめる顏は、天晴あつぱれ大道心者だいだうしんしやに成りすましたり。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
治脩公ちしうこうこれを御覽ごらんじ、おもはず莞爾につこと、打笑うちゑたまふ。とき炊烟すゐえん數千流すうせんりう爾時そのときこう左右さいうかへり
鉄槌の音 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
氣分きぶんすぐれてよきとき三歳兒みつごのやうに父母ちゝはゝひざねぶるか、白紙はくしつて姉樣あねさまのおつくり餘念よねんなく、ものへばにこ/\と打笑うちゑみてたゞはい/\と意味いみもなき返事へんじをする温順おとなしさも
うつせみ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
気分すぐれて良き時は三歳児みつごのやうに父母のひざねぶるか、白紙を切つて姉様の製造おつくりに余念なく、物を問へばにこにこと打笑うちゑみて唯はいはいと意味もなき返事をする温順をとなしさも
うつせみ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
西八條の御宴より歸りみちなるさむらひ一群二群ひとむれふたむれ、舞の評など樂げにたれはゞからず罵り合ひて、果は高笑ひして打ち興ずるを、件の侍は折々耳そばだて、時にひややかに打笑うちゑさま、仔細ありげなり。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
彼はひそかに宮と語らんことを望めるなり、宮はなほ言はずして可羞はづかしげに打笑うちゑめり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
幼君えうくん莞爾につこ打笑うちゑたまひて
十万石 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
かへ團扇うちはおもひをせしときくからず打笑うちゑみし口元くちもとなんど、たゞさきたりて、らず沈思瞑目ちんしめいもくすることもあり、さるにても何人なにびと住家すまゐにや、人品ひとがら高尚けだかかりしは
たま襻 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
宮は打笑うちゑみつ。されども例の可羞はづかしとにはあらで傍痛かたはらいたき余を微見ほのみせしやうなり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
怨みの言葉を言はせも敢へず、老女はまばらなる齒莖はぐきを顯はしてホヽと打笑うちゑ
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)