をのゝ)” の例文
新字:
お信はかれたもののやうに、平次の顏を見上げました。大きい眼は不安と疑惧ぎぐをのゝいて、可愛らしい唇は痛々しくも痙攣します。
何故なぜかそこへ膝をついて、息を切らしながら私の顏を、何か恐ろしいものでも見るやうに、をのゝき/\見上げてゐるのでございます。
地獄変 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
われ等は歸途にきたり。此時身邊なる熔岩の流に、爆然聲ありて、陷穽かんせいを生じ炎焔ほのほを吐くを見き。されどわれはをのゝふるふことなかりき。
説教者の力により胸はをのゝき心は壓倒されたが、やはらげられることはなかつた。終始其處には一種異樣な苦味にがみが漂つてゐた。
私は、目がくるめいて四邊あたりが暗くなる樣な氣がすると、忽ち、いふべからざる寒さが體中ををのゝかせた。皆から三十間も遲れて、私も村の方に駈け出した。
二筋の血 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
丁度ちやうど福鼠ふくねずみ法廷ほふてい横切よこぎつたときに、女王樣ぢよわうさま廷丁てい/\一人ひとりに、『この以前まへ音樂會おんがくくわいの、演奏者えんそうしや名簿めいぼつてまゐれ』とあふせられました、これをいてあはれな帽子屋ばうしやは、ふるをのゝいて
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
彼等かれら自然しぜん彼等かれらまへにもたらしたおそるべき復讐ふくしうもとをのゝきながらひざまづいた。同時どうじこの復讐ふくしうけるためにたがひ幸福かうふくたいして、あいかみに一べんかうことわすれなかつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
深山の鷹が颯爽とをのゝく鳩を打つ如し、 140
イーリアス:03 イーリアス (旧字旧仮名) / ホーマー(著)
おそれみに身も世もあらず、をのゝきて
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
をのゝく指をられなば
花守 (旧字旧仮名) / 横瀬夜雨(著)
みなをのゝいた。
霰ふる (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
金次郎をかばひ損ねたお糸は、今にも取つて押へられさうな疑惧ぎぐをのゝながらも、悲しみ深い眼で、縛られて行く金次郎の後ろ姿を見送つて居ります。
何故私の手はをのゝいたか、何故私は知らぬ間に手にした珈琲茶碗の中味を半分ばかりも、敷皿しきざらの中にこぼしてしまつたか、そんなことを考へなかつた。
アデェルを連れて、客間に行くべき時が近づいてるのを、私はをのゝきながら見守みまもつてゐた。
單純で綺麗な町女房の神經は、理窟も根據もなく、本能的にをのゝくのでせう。