怫然ふつぜん)” の例文
藤三郎は怫然ふつぜんとして突っかかりました。元は武家の出だそうで、今はこんな事をしておりますが、妙に骨っぽいところのある男です。
やりそこなったら最後、まずろくなことはなく、やにわに怫然ふつぜんと色をなして、ステッキで床をこつこつやりだすのが落ちである。
イオーヌィチ (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
二葉亭もまたその一人で、一時は商業学校に学籍を転じたが、翌十九年一月、とうとう辛抱がまんが仕切れないで怫然ふつぜんたもとを払って退学してしまった。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
彼は怫然ふつぜんとして孔子に喰って掛かる。「人臣の節、君の大事に当りては、ただ力の及ぶ所を尽くし、死してしこうして後にむ。夫子何ぞ彼を善しとする?」
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
そのうちに鞄は往来へ飛び出し、彼の眼界から失せた。そこで彼の心の中に怫然ふつぜんと損得観念が勝利を占め、彼はゴム靴の海を一またぎで躍り越えて往来へ飛び出した。
鞄らしくない鞄 (新字新仮名) / 海野十三(著)
これをくやいなや、ラクダルはもつ無花果いちじく力任ちからまかせにげて怫然ふつぜん親父おやぢかた
怠惰屋の弟子入り (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
その語気ごきの人もなげなるが口惜しくて、われにもあらず怫然ふつぜんとしていきどおりしが、なお彼らが想像せる寃罪えんざいには心付くべくもあらずして、実に監獄は罪人を改心せしむるとよりは
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
ただひとの吾を吾と思わぬ時に於て怫然ふつぜんとして色をす。任意に色を作し来れ。馬鹿野郎。……
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
折から夫人が怫然ふつぜんと色を爲した私に吃驚びつくりして、仲裁を頼みに酒屋の爺さんを呼びに行つて、小腰をかゞめてチヨコチヨコ遣つて來た爺さんが玄關を上るなり、Z・K氏は、爺さん/\
足相撲 (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
登米とよまを過ぐる頃、女のもちをうりに来る。いくらぞと問えば三文と答う。三毛かと問えばはいと云い、三厘かといえばまたはいと云う。なおくどく問えば怫然ふつぜんとして、面ふくらかして去る。
突貫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
拝見の博士はかせの手前——まで射損いそんじて、殿、怫然ふつぜんとしたところを、(やあ、飛鳥ひちょう走獣そうじゅうこそ遊ばされい。かか死的しにまと、殿には弓矢の御恥辱おんちじょく。)と呼ばはつて、ばら/\と、散る返咲かえりざきの桜とともに
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「まじめな話だよ」と捕手は怫然ふつぜんとしてとがめた、そうしてつづけた。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
かくも不規則なる所夫おっとに仕え細君がく苦情をならさぬと思えば余は益々いぶかしさにえず、ついに帳番に打向うちむかいて打附うちつけに問いたる所、目科の名前が余の口より離れ切るや切らぬうち帳番は怫然ふつぜんと色を
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
「いったいどこに何があるんだ」と床を蹴って、熊城は荒々しく怫然ふつぜんと叫んだ。が、その時なにげなしに、真斎が後方の鋼鉄扉を振り向くと、そこには熊城の肩を、思わずも掴ませたものがあった。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
然るにこの命令を聞くやスタチオ兄弟は怫然ふつぜん色をし、自国語を以て強弁し、極力反抗の気勢を示したるが、結局ハドルスキー氏の諭示ゆしに服し、団員一同と共に警視庁に出頭の準備すべき旨を答え
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
自信の強かった太田は怫然ふつぜんとして忿懣ふんまんに近いものすら感じた。
(新字新仮名) / 島木健作(著)
怫然ふつぜんと、伝八郎が、問い詰めると
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ヘンデルは怫然ふつぜん色をなして、「それは残念でした。私は皆さんを面白がらせるつもりでこの曲を書いたのではない。少しでも人の心を高めるために書いたのですが——」
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
そのときちょうど、迦葉かしょう阿難あなんの二尊者そんじゃを連れた釈迦牟尼如来しゃかむににょらいがそこを通りかかり、悟空の前に立ちふさがって闘いをめたもうた。悟空が怫然ふつぜんとしてってかかる。如来が笑いながら言う。
季因是はこれを聴くと怫然ふつぜんとして奥へ入ってしまって久しく出て来なかった。
骨董 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
愚直な林氏はここに於て怫然ふつぜん色をした。
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
八五郎は手に残る小判を汚いもののように叩き付けると、怫然ふつぜんとしてそびらを見せました。
と哀願してみたら叔父は怫然ふつぜんとして
鉄鎚 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
八五郎は手に殘る小判をきたないもののやうに叩き付けると、怫然ふつぜんとしてそびらを見せました。
又左衛門は怫然ふつぜんとして顔を挙げました。