形代かたしろ)” の例文
近代でも川に近い地方では、この日形代かたしろを川に投ずることがあり、「お名残り惜しや。来年もござれ」という類のことをいう。
雛祭りとお彼岸 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
さあ、貴下あなた、あらためて、奥様おくさまつくなふための、木彫きぼりざうをおつくあそばせ、すぐれた、まさつた、生命いのちある形代かたしろをおきざみなさい。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
それを形代かたしろに軍用金を貸せと嚇して、小さい家では三十両か五十両、大きい家では百両二百両を巻き上げて行く。
半七捕物帳:40 異人の首 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
家の者は死したるならんと思ひ、女のしたる枕を形代かたしろとして葬式を執り行なひ、さて二、三年を過ぎたり。
遠野物語 (新字旧仮名) / 柳田国男(著)
「御長男様を、調伏した形代かたしろと心得ますが——」
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
様子やうすけば、わし言托ことづけとほり、なにか、内儀ないぎ形代かたしろ一心いつしんきざむとく、……それ成就じやうじゆしたと昨夜ゆふべぢや。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
長い青竹を胴にしてそれに草の葉を編みつけた大蛇の形代かたしろをこしらえ、なんとかいう唄を歌いながら大勢がそれを引摺って行って、近所の大川へ流してしまう。
青蛙堂鬼談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
七 上郷村の民家の娘、くりを拾いに山に入りたるまま帰りたらず。家の者は死したるならんと思い、女のしたるまくら形代かたしろとして葬式を執行とりおこない、さて二三年を過ぎたり。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
魔の女め、姿まで調ととのえた。あれに(ひじ長く森をす)形代かたしろはりつけにして、釘を打った杉のあたりに、如何いかような可汚けがらわしい可忌いまいましい仕掛しかけがあろうも知れぬ。
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
或る村の農家の娘、栗を拾いに山に入ったままかえって来ず、親はもう死んだ者とあきらめて、まくら形代かたしろに葬送をすませてしまって、また二三年も過ぎてからの事であった。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
猫の形代かたしろに受け取って貰おうと存じまして、この児をよそへやる気はないかと訊きますと、実は持て余しているところだから、片輪を承知で貰ってくれる親切な人があれば
半七捕物帳:17 三河万歳 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
畜生ちくしやうひと女房にようばううばつた畜生ちくしやう魔物まもの義理ぎりはあるまいが、約束やくそくたがへてむか、……なんつて約束やくそくした——をんな彫像てうざうこしらへろ、形代かたしろつてい。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
これを形代かたしろとして金三百両を貸してくれ、利分は望み次第であると云った。
半七捕物帳:40 異人の首 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
例の目なし達磨だるまの目を入れたのなども、同じように始末するのみならず、てた以上はずいぶん粗末にしているから、元はやはりわら人形などと同じに、神の形代かたしろとして送り出したものである。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
神職 (あばき出したる形代かたしろわら人形に、すくすくと釘のささりたるを片手に高く、片手に鉄槌をかざすと斉しく、威丈高いたけだか突立上つッたちあがり、お沢の弱腰よわごしどうる)汚らわしいぞ! 罰当ばちあたり。
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
迷惑でもあろうが、これを形代かたしろとして軍用金を調達してくれと云った。
半七捕物帳:40 異人の首 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
媛神 まだ形代かたしろしっかり持っておいでだね。手がしびれよう。うば、預ってお上げ。(巫女受取って手箱に差置く)——お沢さん、あなたの頼みは分りました。一念は届けて上げます。
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)