引立ひつた)” の例文
引立ひつたて出づ。十吉は十八九歳、農家の若者。あとよりお米、十六七歳、村の娘にて、うろ/\しながら出づ。つゞいて以前の娘三人も出づ。
箕輪の心中 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
立騒たちさわめしつかひどもをしかりつも細引ほそびきを持て来さして、しかと両手をゆはへあへず奥まりたる三畳の暗き一室ひとま引立ひつたてゆきてそのまま柱にいましめたり。
竜潭譚 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
猶更なほさら小便の音が引立ひつたつわけだ。どうしたものかと考へた末、八は一生の智恵を絞り出して、椿の木の幹にしかけた。それでもをりをりれてしゆつと云ふことがある。
金貨 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
だから、あいつが御用ごようになつて、茶屋の二階から引立ひつたてられる時にや、捕縄とりなはのかかつた手の上から、きり鳳凰ほうわうぬひのある目のさめるやうな綺麗きれい仕掛しかけ羽織はおつてゐたと云ふぢやないか。
南瓜 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
殺人狂入江三郎を護送した巡査に聞くと、三郎の両手を縛るのに革製の手錠を穿めると、彼は手首を前後に振つてみて、革の裏表がきゆつ/\と擦れて鳴る音にじつと耳を引立ひつたててゐる。そして
邪慳じやけんに、胸先むなさきつて片手かたて引立ひつたてざまに、かれ棒立ぼうだちにぬつくりつ。可憐あはれ艶麗あでやかをんな姿すがたは、背筋せすぢ弓形ゆみなりもすそちうに、くびられたごとくぶらりとる。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
云ひつゝ隙をみて外記の刀を奪ひ取り、それと見かへれば、外にかくれたる伊平忠藏はかけ込みて、矢庭に綾衣の手をとらへ、無理に引立ひつたてゆかんとす。外記は立寄つてなげ退ける。
箕輪の心中 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
「つままれめ、何処どこをほツつく。」とわめきざま、引立ひつたてたり。また庭に引出ひきいだして水をやあびせられむかと、泣叫なきさけびてふりもぎるに、おさへたる手をゆるべず
竜潭譚 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
(無理無體に引立ひつたてる。)日の暮れるのが判りませんか。
能因法師 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
つめたかぜひやりとると、ひだりうでがびくりとうごく、と引立ひつたてたやうに、ぐいとあがつて、人指指ひとさしゆびがぶる/″\とふるふとな、なにかゞくちくとおなじに、こゝろみゝつうじた。……
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
……鷹揚おうやうに、しか手馴てなれて、迅速じんそく結束けつそくてた紳士しんしは、ためむなしく待構まちかまへてたらしい兩手りやうてにづかりと左右ひだりみぎ二人ふたりをんなの、頸上えりがみおもふあたりを無手むずつかんで引立ひつたてる、と
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)