幾何きか)” の例文
つまり数学と英語と二つの敵を一時に引き受けたからたまらない、とうとう学年試験の結果幾何きか学の点が足らないで落第した。(六月十四日)
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
甲野さんはもとの椅子に、故の通りに腰を掛けて、故のごとくに幾何きか模様を図案している。丸にうろこはとくに出来上った。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
先生は代数だいすう幾何きかを教えるにもすべてその方法で、決してまわりくどい術語を用いたり、強いて頭を混惑させるような問題を提供したりしなかった。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
しかし元来数学はお得意でない上に絹子さんのことばかり考えているから、幾何きかでも代数でも実に手間がかかる。
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
彼の能力は幾何きか級数的に進む。イヤ、それどころではない、断崖的に進むことがあるのだ。全く常識では想像もおよばないような奇蹟的着想を掴むことがあるのだ。
偉大なる夢 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
彼は悪魔に別れたのち、校舎の中へくつを移した。教室は皆がらんとしている。通りすがりにのぞいて見たら、ただある教室の黒板の上に幾何きかが一つき忘れてあった。
保吉の手帳から (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
工芸といっても、図工の養成が主で、初歩の図案、幾何きかなど、単純な課目に過ぎない。それに生徒のだらしの無さ、ぼくは失望にくるまれて、転校などを思っていた。
原因はいまだから話すが、幾何きかの宿題をなまけて、先生から叱られるのが恐かったからである。
遁走 (新字新仮名) / 小山清(著)
いわんや不整方程式には、頭も乱次しどろになり、無理方程式を無理に強付しいつけられては、げんなりして、便所へ立ってホッと一息く。代数も分らなかったが幾何きかや三角術は尚分らなかった。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
と云って、それがあて推量ではもちろんないのですよ。貴女は、自分自身では気がつかないのでしょうけども、心の動きを、幾何きかで引く線や図などで、現わすような性癖があるのです。
白蟻 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
正則英語学校予備校に入ったこの時の有三は幾何きかというものを知らなかった。それを幾何いくばくと読んで友達に笑われた。だが、翌年の秋には、東京中学の五年の二学期の補欠試験に合格している。
山本有三氏の境地 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
そうして全国の小学児童に代数や幾何きかの面白さを習得さすべく、彼自身の貴い経験によって、心血を傾けて編纂へんさんしつつある「小学算術教科書」が思い通りに全国の津々浦々つづうらうらにまで普及した嬉しさや
木魂 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
幾何きか、用心、確実にされたる退却、節約されたる予備兵、執拗しつようなる冷静、乱すべからざる方式、地形を利用したる戦術、各隊を平衡せしむる戦術、繩墨式じょうぼくしき殺戮さつりく、時計を手にして規定されたる戦い
ただ帰りがけに生徒の一人がちょっとこの問題を解釈をしておくれんかな、もし、と出来そうもない幾何きかの問題を持ってせまったには冷汗ひやあせを流した。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
幾何きかや物理や英語、それだけでもいまでは異国人のように差異ができた、こうして自分が豆腐屋とうふやになりだんだんこの人達とちがった世界へ墜落ついらくしてゆくのだと思った。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
それから、私は机の上の原稿紙に、まるで幾何きかの問題でも解く様に、様々の形や文字や公式の様なものを、殆ど朝までも書いては消し書いては消ししていたのである。
陰獣 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
小学時代から然うだったが、中学へ移ってからも、是ばかりは変らなかった。此次は代数の時間とか、幾何きかの時間とかなると、もう其が胸につかえて、溜息が出て、何となく世の中が悲観された。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
しかし入学試験という大役を控えているから、無論片手間である。幾何きか代数だいすうに人間という更に不可解な科目が加わったので、昨今急に忙しくなった。電車に乗って学校へ行く途中も修行を忘れない。
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
次のを立て切る二枚の唐紙からかみは、洋紙にはくを置いて英吉利イギリスめいたあおい幾何きか模様を規則正しく数十個並べている。屋敷らしいふちの黒塗がなおさら卑しい。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
幾何きかの答案をだして体操場へゆきますと柳がいました。そこへ阪井がきました、それから……」
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
「矢っ張りよそう。その幾何きかでもやる方がい」
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
むかし數學すうがくすきで、隨分ずゐぶんつた幾何きか問題もんだいを、あたまなか明暸めいれうにしてだけ根氣こんきがあつたことおもすと、時日じじつわりには非常ひじやうはげしくこの變化へんくわ自分じぶんにもおそろしくうつつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
昔は数学が好きで、随分込み入った幾何きかの問題を、頭の中で明暸めいりょうな図にして見るだけの根気があった事をおもい出すと、時日の割には非常にはげしく来たこの変化が自分にも恐ろしく映った。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)