干支えと)” の例文
なるほど来年はとら年というわけで、相変らず干支えとにちなんだ話を聴かせろというのか。いつも言うようだが、若い人は案外に古いね。
(新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
それは自分の生れた年から数へて、ちやうど七つ目に当つた干支えとを絵にかいて、いつも壁に懸けて置く時は、立身出世疑ひないといふ事だ。
あの彫物は二人の干支えとだから、歳を繰つて見ると二十年前に捨てられたお關の(兎)の彫物が三杯みつき家の娘に間違ひないわけだ
奧さんは突然緘默を破つて、「なんにしろ丙午ひのえうまなのだから」と、獨言のやうに云つた。これは博士の母君の干支えとである。
半日 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
こぼしたりさて干支えとのよくそろひ生れとて今まで人にしめさざりしが證據しようこといふ品見すべしと婆はかたへのふる葛籠つゞら彼二品かのふたしなを取出せば寶澤は手に取上とりあげまづ短刀たんたう
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
近い頃ですと、お正月五日間ぐらい博物館もお休みでございますが、その頃は正月もお休みなしで、よくその年の干支えとの絵を並べられたりしてありました。
座右第一品 (新字新仮名) / 上村松園(著)
一緒に出てきた紅錦こうきんまも札袋ぶくろ——それには、紺紙金泥こんしきんでいの観音のすがたに添えて、世阿弥とお才とが仲の一女、お綱の干支えと生れ月までが、明らかにしるしてあった。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ことにことしは干支えと戊寅つちのえとらにちなんで清正きよまさとら退治を出すというので、組屋敷中の者はもちろんのこと、うわさを耳に入れた市中の者までがたいへんな評判でした。
干支えとは六十年周期だから、十二支がもう一廻りすると次のヒノエウマの人々がまた生れてくるが
ヒノエウマの話 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
干支えとしらべならてめえのを先にしろ」とあさ子はやり返す、「笑わしゃあがって、てめえなんぞ午どしなら竹んま、寅どしなら張子はりこの虎がいいところだ、すっこんでやがれ」
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
同じ干支えとに生れた同年の者が交際するには干支の兄、干支の弟という意味で庚兄こうけい庚弟こうていと呼びあい、その子や甥などは干支のおじさんという意見いみで、それを庚伯こうはくと呼ぶの風習があった。
水莽草 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「辰? ほう、いい干支えとだ。おれは、の年だから、蛇を入れたが、兄ちゃんなら、ピシャリ、りゅうだなあ。彫りあがったら、惚れぼれするぞ。おれのは、こんなに、汚ねえが……」
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
寿永だ、寿永だ、寿永にして措け、と寿永で納まって居ると、ある時好古癖こうこへきの甥が来て寿永じゃありません宝永ですと云うた。云われて見ると成程宝永だ。暦を繰ると、干支えとも合って居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
十月以後に生れた子供をその年の干支えとのマル児というが、そのうちでも巳年生れのマル児は特に仕合せがいいとか、哲夫の子の虎雄はそのマル児だからめでたいなどということをよくいっていた。
故郷七十年 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
恵方えほうというものは毎年干支えとによって異る。その方に向って高く棚を張り、葦索あしなわを飾り、松竹を立て、供物並くもつならべに燈火を献じてこれを祭るのを年徳棚としとくだなといい、また恵方棚ともいうと歳時記に書いてある。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
なに、丑年……。君たちなんぞも干支えとをいうのか。こうなるとどっちが若いか判らなくなるが、まあいい。干支にちなんだ丑ならば、絵はがき屋の店を
(新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
お銀の方には、庄司の下女だつた母親から貰つたといふ銀のかんざしがあるし、お舟の方には迷子札がありますがね、干支えとと名前を彫つた眞鍮の迷子札で——
奧さんは迷信家で、をつとの母君の干支えとを氣にして、向うを尅殺せねば、自分が尅殺せられるといふやうな事を思つてゐる。これも antipathy の一つの原因である。
半日 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
干支えとしらべならてめえのを先にしろ」とあさ子はやり返す、「笑わしゃあがって、てめえなんぞ午どしなら竹んま、寅どしなら張子はりことらがいいところだ、すっこんでやがれ」
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
玉ちやんには左の耳朶みゝたぶの下に可愛らしい黒子ほくろがありますし、左二の腕に私と一緒にふざけてつた、小さい/\干支えと(蛇)があるんです。これとつゐの——
これはお銀と言つて本當の干支えとると二十二、向う柳原に住んでゐる八五郎とは顏馴染で、ちよいと鐵火ではあるが、明けつ放しで、お人好しで、そのくせ口が惡くて、ガラガラして
それは兎も角、平次は相變らず粉煙草をせゝつて、三世相大雜書さんぜさうだいざつしよを讀んで居りました。干支えとを繰つて見ると、前世に寺から油を三合借りて返さなかつたので、んなに貧乏するんださうで
干支えとや年廻りなら、とりとかさるとか、たつた一年で濟むことぢやありませんか。火早いのが四年續いて、毎晩三ヶ所五ヶ所から、素性の知れない火をふくのは、人間の惡戯いたづらでなくて何んでせう」
元は強い者いぢめをする惡侍やならず者をこらすつもりで、十二人の仲間が、銘々めい/\干支えとちなんだ、身體に十二支を一つづつ文身したんだが、だん/\仲間に惡い奴が出來て、強請ゆすり、かたり、夜盜
元は弱い者いじめをする悪侍やならず者をらすつもりで、十二人の仲間が、銘々の干支えとちなんで、身体に十二支を一つずつ文身ほりものしたんだが、だんだん仲間に悪い奴が出来て、強請ゆすり、かたり、夜盗
「お前さんの家に、全く同じ歳の女が二人居ないか。この干支えとの人は、相剋さうこくする運勢を持つて居るから、同じ屋根の下に住んで居れば、一方がきつと一方に殺される。くれ/″\も氣をつけるやうに」
「ところで干支えと刺青ほりもののことはみんな知つてゐるのか」
「こいつは干支えとや年廻りのせいでしょうか、親分」
「こいつは干支えとや年廻りのせゐでせうか、親分」
「へエ、矢張り干支えとのやうなもので」