川岸かし)” の例文
つい此間の大雨の晩、おつさんは何處かで引かけてふらふら歸つて來る川岸かしつぷちで、正に身を投げようとする女を抱きとめた。
大阪の宿 (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
折々きこゆるは河鹿かじか啼声なきごえばかり、只今では道路みちがこう西の山根から致しまして、下路したみちの方の川岸かしへ附きましたから五六町でかれますが
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
うすい灯のいろが、ゆうべのように川岸かしの夕ぐれの中ににじんで、客もないのか、打ち水に濡れた石のいろが、格別にきょうはわびしかった。
山県有朋の靴 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
川岸かし女郎じょろうになる気で台湾たいわんへ行くのアいいけれど、前借ぜんしゃく若干銭なにがしか取れるというような洒落た訳にゃあ行かずヨ、どうも我ながら愛想あいその尽きる仕義だ。
貧乏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
斯んなことで、大した收獲もなく、もう一度主人榮之助に逢ひ、仇つぽい新造のお淺に送られて、相生町の通り、川岸かしつぷちを囘向院の方へたどりました。
これからは些と川岸かしをかへて、よし原の方へ乘り出さうではございませんか。品川へは兎角にさういふ亂暴ものが入り込んで、とんだ係り合ひになりますからな。
正雪の二代目 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
川岸かし椅子パンに坐って、しばらくは言葉もなく差し控えていると、その前を、氷斧アックスをかかえた三人連れの登山者が、談笑しながら登山鉄道の乗り場の方へ歩いて行った。
二人ふたり同時どうじに、川岸かしへドンとんだ。曲角まがりかどに(危險きけんにつき注意ちうい)とふだつてゐる。
深川浅景 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
大分おそうなったが如何どうだろうと云うと、主人が気をかして屋根舟を用意し、七、八人の客を乗せて、六軒堀の川岸かしから市中の川、すなわ堀割ほりわりを通り、行く/\成島なるしま柳橋やなぎばしからあが
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
ときはあるもの飯田町いひだまち學校がくかうよりかへりがけ、日暮ひくまへ川岸かしづたひをさびしくれば、うしろより、ごゑいさましくけしくるまのぬしは令孃ひめなりけり、何處いづくかへりか高髷たかまげおとなしやかに
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
終日読書をする。れた夜には大砲の様な望遠鏡で星の世界を研究する。曇天か或は雨の夜には、空中飛行船の発明に苦心する。空腹を感じた時は、電話で川岸かしの洋食店から上等の料理を取寄る。
葬列 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
川岸かし荷車にぐるま轣轆れきろくふる
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
川岸かしに上つて、橋袂の氷みせで、しきりに辭退する娘を強ひて氷菓アイスクリームを喰べ、わざと時間を消して宿に歸つた。
大阪の宿 (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
新橋の汐留しおどめ川岸かしから船が出ると、跡から芸者か丈助さん/\という声がするから、其の中に丈助さんという奴が居たので、丈助と云うのは手掛りの名だから
「何? 庭には、川岸かしの往来に向いた木戸よりほかに入口も出口もねえ、——銭湯へ行ったと言う、与次郎が疑われるわけだな、足跡の様子では下駄は、女物か、男物か」
大きな聲で呼びかける目の下の川岸かしにしやがんで、洗濯をしてゐるのは教會の眞向の家の娘だつた。
大阪の宿 (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
真っ暗な川岸かし伝いに両国へ若い女の夜道は楽ではありませんが、お静は側目わきめもふらずに急ぎます。
吉原へ繰込みましては川岸かし遊びにヤッと熱をさましておりました。
宵とはいってもこの大雪に、往来の方へ向いた、入口の格子こうしを叩くならまだしも、川岸かしへ廻って、庭の木戸から縁側の雨戸を叩く者があるとすると、全く唯事ただごとではありません。
川岸かしっぷちを相生町あいおいちょうの方へ少し行くと、物蔭から不意にガラッ八が飛出します。
川岸かしツぷちを相生町あひおひちやうの方へ少し行くと、物蔭から不意にガラツ八が飛出します。
ちょうどその時、幸三郎は、川岸かしっぷちを、フラフラと歩いておりました。
「え、祈祷所とちょうど背中合せで、川岸かしっぷちの家ですよ」
「木戸の向うは川岸かしぷちの往来ですね」