寄添よりそ)” の例文
「ぢやアぼくは帰るよ。もう………。」とふばかりで長吉ちやうきち矢張やは立止たちどまつてゐる。そのそでをおいとは軽くつかまへてたちまこびるやうに寄添よりそ
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
 (太吉も今は引込ひっこんでもいられず、恐る恐る這い出して来て、父のうしろに寄添よりそうと、重兵衛は鮓の折をって、その眼さきに突き付ける。)
影:(一幕) (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
世に不思議な、この二人の、毛布けっとにひしと寄添よりそったを、あの青い石の狐が、顔をぐるりと向けて、鼻でのぞいた……
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
むすめ先刻さきなみだみしかば、さらでものつかはなはだしく、なよ/\とはゝひざ寄添よりそひしまゝねぶれば
うつせみ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
四、五人寄添よりそってひたいをつき合せながら、骨牌かるたを切っているものもあれば、乳呑児ちのみごひざの上にして、鏡に向って化粧をしているものもある。
勲章 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
が、れい大鞄おほかばんが、のまゝ網棚あみだなにふん反返ぞりがへつて、したしなびた空気枕くうきまくら仰向あふむいたのに、牛乳ぎうにうびんしろくび寄添よりそつて、なんと……、添寝そひねをしようかとするかたちる。
銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ささやくような小声ながらも一語一語ひとことひとこと念を押すように力を入れ、ぴったりうしろから寄添よりそっていつか手をも握りながら、「お前、もうおれがいやになったのか。」
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
つぼねは、猶予ためらはず、肩をすれ違ふばかり、ひた/\と寄添よりそつて
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
女は立膝たてひざして何事をか訴へ引留ひきとむるが如く寄添よりそへば、男は決然と立つてはかまひもを結び直しつつも心引かるる風情ふぜいにて打仰ぐ女の顔をば上よりななめに見下ろしたり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
と、寄添よりそいながら、お君も莞爾にっこり
縁結び (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
二人は少時しばし立ちすくんだままたがいに姿さえ恐るる如く息をこらして見合っていたが、やにわに双方から倒れかかるように寄添よりそいざま、ひしと抱合いだきあって、そのまま女は男の胸に
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
されば男は此処にその呼びとむる声を聞きその寄添よりそふ姿を見る時は、過ぎし昔の前兆を今又目前に見る心地して、その宿命に満足し、犠牲に甘んじて、冷き汚辱をじよくの手を握り申侯。
夜あるき (新字旧仮名) / 永井荷風(著)