いたわ)” の例文
「何を泣く、何をいたわる。おまえがそのように育てるから、亀一も柔弱になるのだ。死にはせぬ。——寄るな、あッちへ行っておれ」
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しゅうとの宗円はそう叱っても決していたわりなどしなかった。宥れば宥るほどかえって彼女の女ごころをとめどなく掻き乱すからであろう。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
やさしくいたわってなどいられなかった。彼のことばは丁寧でも、彼の語気は怖かった。お市の方は、茶々を抱いて、彼の背に託した。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こまを寄せると、熊楠は、紫の太紐を解いて、絶えずいたわるもののように抱えていた八雲の体を、鞍つぼからそっとり下ろした。
篝火の女 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
母は、ぼくの義兄とは、文字どおり義理の仲なので、なおさら気をつかっていたに違いなく、始終、嫁をいたわかばう容子がぼくらにさえ分った。
頂上の転法輪寺てんぽうりんじには、松尾刑部やら、なつかしい顔が、大勢待っていてくれた。刑部は久子が嫁いだ時の媒人なこうどである。みないたわりぬいてくれる。
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今朝は、あんなに元気で家を出た人が、と九叔の妻は泣き泣き良人おっとを病床にいたわり寝かせた。——だが、誰もいなくなると
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
話しながら、山陽の手は、骨ばった母のからだに哀れっぽいいたわりをもって、肩から腰の辺りをそろそろと揉んでいた。
梅颸の杖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
このていに、嘉平はしばらく、狐にツマまれたような顔をしたが、若党仲間たちへ、何事かささやいて、かれはお縫ひとりへ、あらゆるいたわりをかけた。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、半兵衛の病をいたわることも忘れず、その功を賞して、彼には、銀子ぎんす二十枚を薬料として与え、また秀吉の方へは
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「わたくし達と御一緒に、お濠の下馬橋げばのはしまでは、与倉様の奥さまをいたわりながら確かに歩いておいで遊ばしたのに」
日本名婦伝:谷干城夫人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「そうか。よくこそ」と孔明は、それから各自の者へ向って、賞辞といたわりを惜しまなかった。けれど彼の心中には、ぬぐいきれない一抹のさびしさがあった。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「駈け戻って、いまの老婆を、すぐ城へとものうて来い。自害せぬよう、眼をはなたず、やさしく、よういたわって」
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼の献言けんげん、そのはかり、至極妙と存じたゆえ、敵に洩るることをおそれて、却って、あのようにわざと叱ったわけでした。あとで貴所あなたからよくいたわってつかわされるように
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いい加減な慰めがこの年月の彼女の艱難にだけでも、露ほどの、いたわりになりはしない——と思うのだった。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彦右衛門が手招きして、庫裡くりの一室へ連れて行った。塗籠ぬりごめ経蔵きょうぞうである。ゆっくりやすむがよいといたわって、男を中へ導くと、彦右衛門は外からじょうおろしてしまった。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、ふたりの肩をたたいてねぎらい、その部下たちは、馬を取って、内へ曳き入れ、また使者の袖や背のほこりを払ってやるのもあるし、汗拭あせふきを与えていたわるもあるし、口々に
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大川もずッと下流しもの、浜町はずれのその寮からは、船を見るとすぐ、案じていた老女や腰元らしいのが走り出して、ズブ濡れになった朋輩ほうばいを引き上げたりいたわったりしていた。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ご、ご冗談を。……それどころじゃなく、まだ夕方の灯にも間があるしと、隣の部屋で点心(菓子)などをやっていたわっておいたんですよ。すぐ追ッ払ってまいりますから」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
正成の声が「——入れ」と内でいたわっている。その側には、正季もいた。卯木は、さばきの前にすえられたように、ちょっと、良人の顔をうながして、共に片隅へ手をつかえた。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
貧しきをいたわり、弱きを助け、また世の好漢おとこどもとのまじわりも厚く、かねて剣技に達し、棒をよく使うが、そんな武力沙汰は、まだ一度も表にひけらして人に示したことはない。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
むしろ、いたわり慰めて事ごとに気をつかうふうすら見える。そして富田とんだの陣営に迎えるとすぐ
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
人々は、厩舎うまやに曳きこまれた勝馬をいたわりにゆくのでもなく、敗者の騎手を慰めに行くのでもなかった。競馬場は飽くまでも、勝者の独壇場でありかがやく者のためにある広場だった。
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「そうだろうとも」と、百は、いたわるような眼で、足をさすっているお稲をながめた。
野槌の百 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その夜の速記を新年号の“筆間茶話”にどうかといわれたが、ちと小生へのいたわりだの楽屋落ちも過ぎるし、何よりは自画自讃のクサ味に落ちるのをおそれて、ここへ持ち出すのはやめた。
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おぬしらも、やがては年をるのじゃぞ。はるばると遠国から越えて来たこのとしよりを、親切にいたわろうとはせず、ね土を浴びせたり、歯をむいて嘲笑あざわらうたりするのが江戸の衆の人情か
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さわやかな夕風が、苦しい仕事を済ました後の気もちを、柔かにいたわってくれる。
田崎草雲とその子 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と又太郎は、この小さい不愍ふびんな従弟を、いたわりようもなくその肩へ手をのせた。
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しき御縁と申すしかございませぬ。先年、わが良人つまが鎌倉表へ曳かれて長い幽居のうちに、ごねんごろなおいたわりを給うたうえ、良人の形見までを、おあずかりおき下さいましたそうな」
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
『吉田休安に服薬方を仰せ付けられ、外科には、栗崎道有を遣わされて、大切に保養せいとあるので、はや退出した。他の高家衆に介添かいぞえまで命じられて、随分、御懇ごねんごろなおいたわりであったらしい』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と自身、自分の幕営のうちへ、手を取らぬばかりいたわりながら導いて行った。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
が、馬も疲れきッて、ここでは傷負ておい馬などもう一歩も前へ出ない。正成はくらを下りた。ほかの将も騎の者はそれにならって馬を捨てた。そして追いやるにみな鼻ヅラを撫でていたわり放つふうだった。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
馬の背に押しまいらせても、期日までに、彼方かなたへ着けとの厳命なのです。……が、いかでこの道誉が、さような非情におよび得ましょうや。ここはまだ六波羅も間近まぢか、先ではおいたわりもできましょう。
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
秀吉の眼も、無言のうちに、絶えず病の人をいたわっていた。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
忠房はしとねを出て、悲痛な目を落しながらいたわった。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それから介三郎は、いたわりと、旅のきょうとで
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
将軍は、彼の労をいたわってから
日本名婦伝:谷干城夫人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
此家このやの百姓をいたわってやれ」
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、いたわりぬいた。
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
頼朝が、いたわると
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いたわって——
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)