嫉妬ねたみ)” の例文
わが血は嫉妬ねたみのために湧きたり、我若し人の福ひを見たらんには、汝は我の憎惡にくしみの色におほはるゝをみたりしなるべし 八二—八四
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
真実の叫びだった、今にして知る、——あの時蝙也を憎んだと思ったのは、乙女の胸に生れて初めて芽した嫉妬ねたみであったのだ。
松林蝙也 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
愛嬌あいきょうしたたるような口もと、小鹿が母を慕うような優しい瞳は少くとも万人の眼をいて随分評判の高かっただけに世間の嫉妬ねたみもまた恐ろしい。
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
すなわち淫行、窃盗ぬすみ、殺人、姦淫かんいん慳貪むさぼり邪曲よこしま詭計たばかり、好色、嫉妬ねたみ誹謗そしり傲慢ごうまん、愚痴など、すべてこれらの悪しきことは内より出でて人を汚す。
まッ黒な嫉妬ねたみにつつまれた小六は、忿怒ふんぬくらんだ力まかせ、可愛さあまったお延の姿へ、きらりと抜き浴びせて行った。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それをおうらまをすのではない。嫉妬ねたみそねみもせぬけれど、……口惜くちをしい、それがために、かたきから仕事しごと恥辱ちじよくをおあそばす。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
夜昼となくその高殿から、嫉妬ねたみ猜疑うたがい呪咀のろいとをもって、妖精のように桂子が、自分たちを看視していることだろう。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
一度も縁づいた事のない彼女が、嫉妬ねたみがましい息づかいで、まるで夢遊病者のような狂体を演じようとしている。
放浪記(初出) (新字新仮名) / 林芙美子(著)
祖父ぢゞが若い時分、撃剣の同門の何とかといふ男が、あまり技芸に達してゐた所から、ひと嫉妬ねたみを受けて、ある夜縄手みちを城下へ帰る途中で、だれかに斬り殺された。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
自分の邪推かは知らないが、ひょっとすると其の娘は上州屋の息子となにか情交わけがあって、今度の縁談について一種の嫉妬ねたみの眼を以てお年を窺っているのではあるまいかと云った。
半七捕物帳:22 筆屋の娘 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
嫉妬ねたみの影のいたみぞ癒えがたきや。
独絃哀歌 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
こひはれぬ嫉妬ねたみもて
友に (新字旧仮名) / 末吉安持(著)
嫉妬ねたみちょうの身ぞつらき
若菜集 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
黄泉よみ醜女しこめ嫉妬ねたみあり
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
わが目もいつかこゝにて我より奪はるゝことあらむ、されどそは暫時しばしのみ、その嫉妬ねたみのために動きて犯せる罪すくなければなり 一三三—一三五
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
今まで私の思うたことのいつか恐ろしい嫉妬ねたみ邪道よこみちに踏み込んでいたのに気がつくと、私はもう堪えかねて繃帯の上から眼をおおうて薬局の窓に俯伏した。
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
浮藻うきもの歌っている歌声であった。ムラムラと桂子の胸の中へ、嫉妬ねたみ憎悪にくしみとの思いが湧いた。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
市郎はこれより他に、自分の潔白を表明すべきことばを知らなかった。わが子を信ずる安行はわずか首肯うなずいたが、疑惑うたがい嫉妬ねたみとがわだかまれる冬子の胸は、まだ容易に解けそうにも見えなかった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
犬が三頭——三疋とも言わないで、姐さんが奴等やつらの口うつしに言うらしい、その三頭もしゃくに障った。なにしろ、私の突刎つっぱねられたように口惜くやしかった。嫉妬ねたみだ、そねみだ、自棄なんです。
鷭狩 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
祖父じじに就ても、こんな話がある。祖父が若い時分、撃剣の同門の何とかいう男が、あまり技芸に達していた所から、ひと嫉妬ねたみを受けて、ある夜縄手道なわてみちを城下へ帰る途中で、誰かに斬り殺された。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
嫉妬ねたみの蝶の身ぞつらき
藤村詩抄:島崎藤村自選 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
それ汝等の願ひの向ふ處にては、侶とわかてば分減ずるがゆゑに、嫉妬ねたみふいごを動かして汝等に大息といきをつかしむれども 四九—五一
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
口もとに言いようのない一種の愛嬌あいきょうをたたえて大槻に会釈した時のあでやかさ、その心象まぼろしがありありと眼に映って私は恐ろしい底ひしられぬ嫉妬ねたみの谷に陥った。
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
戀の嫉妬ねたみもあるものを
藤村詩抄:島崎藤村自選 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)