妖精ようせい)” の例文
こんな遅い時刻でさえも、中天にただ一つ、つけっ放しになっている蒼いランプは、すんなりした女の姿を、妖精ようせいのように見せていた。
紅毛傾城 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
そのとき、ふと見ると、塔のてっぺんの小窓のところに、赤いとんがり帽子をかぶった、小さな教会の妖精ようせいが立っていました。
そうでなければあの魔物じみた夕桜の妖精ようせいが現れたのだ、………と、そんな風に、内心自分の視覚の世界を否定しようとするものがあって
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
ピーシチク (驚嘆して)こりゃ、どうだ! いや、あなたは魔女か妖精ようせいか、シャルロッタさん……わしはすっかりあんたにれましたよ……
桜の園 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
私にはただなんとなくそれがおとぎ話にあるようなさびしい山中の妖精ようせいの舞踊を思い出させた。そしてその時なぜだか感傷的な気分を誘われた。
田園雑感 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
それらのものは妖精ようせいつえであった。長いまっすぐなものは、やりになったり剣になったりした。それを打振りさえすれば、多くの軍隊が湧き出した。
一たんはそうおもいましたが、さだめてよくよくると、それは妖精ようせいでもなんでもなく、矢張やは人間にんげん小供こどもなのでした。
「どうせこのへんは邪悪な妖精ようせいに満ちているのだろう。どこへ行ったって災難にうのだとすれば、ここを災難の場所として選んでもいいではないか」
というのは、妖精ようせいとか、小人こびとのようなものは、ふだんからこわがっていましたが、魔女なんてものが、この世の中にいるとは信じていませんでしたから。
美しい妖精ようせいに魅せられた少年のように、信一郎は顔を薄赤く、ほてらせながら、たゞ茫然ぼうぜんと黙っていた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
見れば見るほどそれに眩惑げんわくされた。あたかも楽園を見るような気がした。その大きい人形の後ろには幾つも他の人形があって、それが妖精ようせいや精霊のように思われた。
海岸には、光線がぎっしりと充填つまって、まぶしくって、何にも見えない位だった。そしてその光線の中へは、一種の妖精ようせいにでもならなければ、這入はいれないように見えた。
麦藁帽子 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
気ままに空想してそれをなにかの妖精ようせいの国に仕立て、自分でつくりだした生きものをそこに住まわせたり、そしてまた、しずかにうねる大波が銀色のからだをころばせてゆくのを見て
船旅 (新字新仮名) / ワシントン・アーヴィング(著)
ちょいと坐って、身体を暖めていただけなのに——と、ここでベッキイは、自分が眼をお皿のようにして、薔薇色の妖精ようせいみたいなあの評判なお嬢さんと向き合っているのに、気がつきました。
オペラ「妖精ようせい」を作ったころから、ワグナーの音楽家生活は始まった。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
この女は常にはただニヤニヤしているばかりの凡そだらしない、はりあいのない女であったが、遊びの時の奔騰ほんとうする情熱はまるで神秘な気合のこめられた妖精ようせいであった。別の人間としか思われない。
二十七歳 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
空想力が枯渇すれば、この本をひらく。たちまち花、森、泉、恋、白鳥、王子、妖精ようせいが眼前に氾濫するのだそうであるが、あまりあてにならない。この次女の、する事、す事、どうも信用し難い。
ろまん灯籠 (新字新仮名) / 太宰治(著)
自分の実の子(もっとも彼はかに妖精ようせいゆえ、一度に無数の子供を卵からかえすのだが)を二、三人、むしゃむしゃべてしまったのを見て、仰天ぎょうてんした。
悟浄出世 (新字新仮名) / 中島敦(著)
その映像で見ると、彼女は水晶の珠の中に妖精ようせいか、竜宮の姫君か、王宮の王妃のようにも見えるのであった。
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
『ここは妖精ようせい見物けんぶつには誂向あつらえむきの場所ばしょじゃ。たいていの種類しゅるいそろってるであろう。よくをつけてるがよい。』
いまきみのの前に見えるのは妖精ようせいの城ではなくて、教会です。金めっきをした円屋根まるやねとそのまわりの金の球が、わたしの光を受けて、きらきらとかがやいています。
それは妖精ようせい物語にたいする無味乾燥な序文のように思われた。人間の用に供せられた眼に見えない力であって、恐ろしくはあるがすっかり圧倒されてる精霊なのだった。
そうして、それはやはり日本の化け物のようでもあるが、その中のあるものたとえば「古椿ふるつばき」や「雪女」や「離魂病」の絵にはどこかに西欧の妖精ようせいらしい面影が髣髴ほうふつと浮かんでいる。
それには妖精ようせいか警官かが手を貸したに違いなかった。クラクズーは一片の雪が水の中にとけ込むようにやみの中にとけ込んでしまったのであろうか。警官らの方でひそかにかくまったのであろうか。
いたずら妖精ようせいおとなしく、魔女は通力失って
年齢としをとるのは妖精ようせい人間にんげん同一どういつじゃ。老木ろうぼくせいは、かたちちいさくとも、矢張やは老人ろうじん姿すがたをしてる……。』
そして、小人の妖精ようせいか、さもなければ、ほかの小さな精霊せいれいが来ているのではないかと思いました。
女偊じょう氏はまた、別の妖精ようせいのことを話した。これはたいへん小さなみすぼらしい魔物だったが、常に、自分はある小さな鋭く光ったものを探しに生まれてきたのだと言っていた。
悟浄出世 (新字新仮名) / 中島敦(著)
少年は息をこらして、年長の友が話してくれる妖精ようせい物語に耳を澄ましていた。そしてオリヴィエのほうでも、少年のき手の深い注意に気乗りがして、自分の話に夢中になっていた。
妖精ようせいの舞踊や、夢中の幻影は自分にはむしろないほうがよいと思われた。
映画雑感(Ⅲ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
桔梗の方の妖精ようせいじみた美しさ迄が何か此の世のものでないようにすさまじい。
妖精ようせいいたちねずみ、白鼬からお守り下さい。
これから教会のとうへ行って、教会のこびとの妖精ようせいかねをみがいて、いい音がでるようにしておいたかどうかを見なければならないし、畑へも行って、風が草や木の葉から
私は今でも盆踊りというとその夜を思い出すが、不思議な錯覚から、その時踊っていた妖精ようせいのような人影の中に、死んだその人の影がいっしょに踊っていたのだというような気がしてしかたがない。
田園雑感 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
妖精ようせいたちも
けれども、この三人は妖精ようせいの娘ではありません。人間の娘たちなのです。あたりには、あまいかおりが、ただよっていました。やがて、娘たちは、森の中へ姿を消しました。
森の花は、かわいらしい、小さな妖精ようせいのことや、チョウから聞いた話をしてくれました。