妄想まうざう)” の例文
これ奇妙きめう妄想まうざうたものだ。』と、院長ゐんちやうおもはず微笑びせうする。『では貴方あなたわたくし探偵たんていだと想像さうざうされたのですな。』
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
此頃このごろ室中しつちゆうきたつて、うも妄想まうざうおこつて不可いけないなどうつたへるものがあるが」ときふ入室者にふしつしや不熱心ふねつしんいましめしたので、宗助そうすけおぼえずぎくりとした。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
森閑しんかんとした浴室ゆどの長方形ちやうはうけい浴槽ゆぶね透明すきとほつてたまのやうな温泉いでゆ、これを午後ごゝ時頃じごろ獨占どくせんしてると、くだらない實感じつかんからも、ゆめのやうな妄想まうざうからも脱却だつきやくしてしまふ。
都の友へ、B生より (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
そしてわたくしが正直にすると、非常な悪事を働くとの別は、ひどく重大な事件だと妄想まうざうしたとしませう。そんな事が皆利足の附くやうになつてゐるのです。
「何としたことか! 何といふ妄想まうざうが、私を襲つたのだらう? 何といふ嬉しい狂氣きやうきになつたのだらう?」
湿つた石壁につてしたたる水が流れて二つの水盤に入る。寂しい妄想まうざうに耽りながら此中の道を歩く人に伴侶を与へるためか、穹窿きうりうには銅で鋳た種々いろ/\鳥獣とりけものが据ゑ附けてある。
復讐 (新字旧仮名) / アンリ・ド・レニエ(著)
はじめあひだ矢張やはりあたまめうで、先刻せんこくおなやうにいろ/\の妄想まうざうしてもしてもむねうかんで
時としてはステパンの心が冷静になつて、そんな妄想まうざうが跡を絶つてしまふ。そんな時に前に言つたやうな妄想を思ひ出して見ると、自分がそれに負けずに、誘惑に打ち勝つたのが嬉しくなる。
てゐるひときてゐるひと何處どこにもりさうにはおもへなかつた。宗助そうすけそと勇氣ゆうきうしなつた。じつきながら妄想まうざうくるしめられるのはなほおそろしかつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
わたくし時折ときをり種々いろ/\こと妄想まうざうしますが、往々わう/\幻想まぼろしるのです、或人あるひとたり、またひとこゑいたり、音樂おんがくきこえたり、またはやしや、海岸かいがん散歩さんぽしてゐるやうにおもはれるときります。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
それまでの間ずつと、私は妄想まうざうに耽るときなぞなかつた。さうして、確かに、私は、アデェルは別として、他の人々と同じくらゐにはいそ/\と立働いて、快活だつたと思ふ。