喟然きぜん)” の例文
一度、しかとしめてこまぬいた腕をほどいて、やや震える手さきを、小鬢こびんそっと触れると、喟然きぜんとしておもてを暗うしたのであった。
みさごの鮨 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
僕はカッフェーの卓子にって目には当世婦女の風俗を観、心には前代名家の文章を想い起すや、喟然きぜんとしてわが文藻の乏しきを悲しまなければならない。
申訳 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
後水戸学の宿儒しゅくじゅ会沢あいざわ、豊田の諸氏に接し、その談論を聞き、喟然きぜんとして嘆じて曰く、「皇国に生れ、皇国の皇国たる所以を知らず、何を以て天地の間に立たん」
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
「黒い方がいいだろう。なまじ白いと鏡を見るたんびに己惚おのぼれが出ていけない。女と云うものは始末におえない物件だからなあ」と主人は喟然きぜんとして大息たいそくらした。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
嗚呼あゝ是れ健康なる思想の表彰として賀すべきの事なりや、そもそも亦喟然きぜんとして歎ずべきの事なりや。
凡神的唯心的傾向に就て (新字旧仮名) / 山路愛山(著)
わがちゃァちゃんは、フロックコートに身を固めたわが小柴市兵衛君は、すぐ眼のまえに突兀とっこつとそそり立った、不恰好な、半西洋の三階建を指さして喟然きぜんとしていった。
浅草風土記 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
ト文三は慄然ぶるぶる胴震どうぶるいをしてくちびるいしめたまましばらく無言だんまりややあッてにわか喟然きぜんとして歎息して
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
九十一歳になる彼の父は、若い頃は村吏そんり県官けんかんとして農政には深い趣味と経験を有って居る。其子の家に滞留中此田川のくろを歩いて、熟々つくづくと水を眺め、喟然きぜんとして「仁水じんすいなあ」と嘆じた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
……これを見た呉青秀は喟然きぜんとして決するところあり、一番自分の彩筆の力で天子の迷夢を醒まして、国家を泰山の安きに置いてやろうというので、新婚匆々そうそうの黛夫人に心底を打ち明けて
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
曰く、暮春ぼしゅん春服既に成り、冠者かんじゃ五、六人、童子どうじ六、七人を得て、(水の上)に沿(浴)い舞雩ぶう(の下)にいたり詠じて帰らん。夫子喟然きぜんとして嘆じて曰く、吾は点にくみせん。三子者出でて曾皙そうせきおくる。
孔子 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
それを見やった薬草道人、喟然きぜん嘆息をしたものである。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
喟然きぜんとしてわたしたんじた。人間にんげんとくによる。むかし、路次裏ろじうらのいかさま宗匠そうしやうが、芭蕉ばせをおく細道ほそみち眞似まねをして、南部なんぶのおそれやまで、おほかみにおどされたはなしがある。
木菟俗見 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
喟然きぜんとして歎息せざるを得なかつた次第である。
来訪者 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
彼は喟然きぜんとして大息たいそくしていう。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
狐床の火の玉小僧、馬琴の所謂いわゆる、きはだをめたるおうしのごとく、喟然きぜんとして不言ものいわず。ちょうど車夫が唐縮緬の風呂敷包を持って来たから、黙って引手繰るように取った。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ああ、と喟然きぜんとして天井を仰いで歎ずるのを見て、誰が赤い顔をしてまで、貸家を聞いて上げました、と流眄しりめにかけて、ツンとした時、失礼ながら、家で命はつなげません、貴女は御飯が炊けますまい。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と、喟然きぜんとして歎じて、こんどは、ぐたりとその板へひじをつく。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
喟然きぜんとする。)
山吹 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
医師せんせい喟然きぜんとして
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)