喇叭ラッパ)” の例文
かくてカミイル・デスモリンの熱烈なる雄弁はバスチル牢獄と苛酷なる政治とあらゆる伝習とを顛覆するエリコの前の喇叭ラッパであつた。
少数と多数 (新字旧仮名) / エマ・ゴールドマン(著)
それが、始め上体に衝動が起ったと見る間に、両眼をみひらき口を喇叭ラッパ形に開いて、ちょうどムンクの老婆に見るような無残な形となった。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
喇叭ラッパめると、すぐそのまま、大事そうに仕舞い込んでしまった、別に飲みたくはないが、むらむらっと疳癪が込み上げて来た。
スウィス日記 (新字新仮名) / 辻村伊助(著)
どうしても入って来ないようなら、力づくで引っ張り込まなければなりません。「呼び込み」は喇叭ラッパとタンボリンを使うこと。
坑壁いっぱいに質のいゝ黄銅鉱がキラ/\光って見える。彼は、鉱脈の拡大しているのに従って、坑道を喇叭ラッパ状に掘り拡げた。
土鼠と落盤 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
この群衆の中を行く時、御者は小さな喇叭ラッパを調子高く吹き鳴らし、先に立って走る馬丁は奇怪きわまる叫び声をあげた。
と大きな声を出しながら、四合瓶ごうびん喇叭ラッパを吹いていた一人が、ヒョロヒョロと前に出て来た。トロンとした眼を据えて
爆弾太平記 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
隣室で時計が十一時を報じ、なま暖かい春陽はるの光が洪水のように室に充ち窓下の往来を楽隊が、笛や喇叭ラッパを吹きながら通って行くのも陽気であった。
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
博士の乗ったランチがくると、駆逐艦では敬意を表して、甲板上に喇叭ラッパ手が整列して国歌をりょうりょうと吹奏した。
骸骨島の大冒険 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
喇叭ラッパの響のみならず、昼のうちは馬場の砂烟すなけむりが折々風の吹きぐあいで灰のように飛んで来て畳の上のみならずふすまをしめた押入おしいれの内までじゃりじゃりさせる事がある。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
深い煙突のやうな形をした花冠の中から此の蜜を吸ひ出すのに、蝶は長い喇叭ラッパのやうな管を持つてゐる。
橘家圓太郎を襲名するについて高座で吹き鳴らしたいと言っていた真鍮の喇叭ラッパ、豆腐屋さんが皆献納してしまったので入手困難だとかねがね百圓君が言っていたが
随筆 寄席風俗 (新字新仮名) / 正岡容(著)
ピアノの上にはどす黒いラジオの喇叭ラッパが載っている。その室内には白いテエブルクロースを掛けた食卓が三列に流れ、中央のにはピアノを背にして船長が腰かける。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
忠公のお母さんの肩掛を着せたら、少しは象らしくなったが、牙がなくてはうも拙い。それで何かのやくに立つだろうと思って持って来た伯父さんの喇叭ラッパくわえさせた。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
六年間肺病とたたかっていた父の生涯、初めて秋田の女学校へ入るために、町から乗って行った古風な馬車の喇叭ラッパの音、同性愛で教育界に一騒動おこったそのころの学窓気分
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
二、三間きに箱の主がいて、牀几しょうぎに腰をかけたり、ぼんやり、セーヌ河畔かはんの釣客を眺めたり、煙草の煙を輪に吐いたり、葡萄酒の喇叭ラッパ飲みをしたり、居睡いねむりをしたりしている。
愛書癖 (新字新仮名) / 辰野隆(著)
曹長の報告はまだ続いて、カルポフが喇叭ラッパの新しい紐と天幕のくいを忘れたとか、将校の方々が昨夜フォン=ラッベク将軍のお邸へばれて行かれましたとか述べ立てて行った。
接吻 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
そして、連隊本部のちょっと手前になった、朝夕喇叭ラッパを吹くあたりまで往くと、不意に消えたようなしんとなってしまい、兵営は何事もなかったように元の静けさにかえるのであった。
戦死者の凱旋 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
そのとき、向こうの方で、あわただしく集合喇叭ラッパが鳴った。さっきの呼笛を聞きつけて、警備班が出動をはじめたらしい。早くも奥の通路から、入りみだれた靴音が聞えてきた。
浮かぶ飛行島 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そうして、室内へ入ると即座に吊り革へぶら下って、ウイスキーの喇叭ラッパ飲みをやった。
恐怖 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
誰か見物人が……恐らく二高の生徒であろう……そっと手をのばして喇叭ラッパをやったに違いない。会が済んだら飲んでやろうと、実は心まちに待っていた我々幹事は、大いに憤慨した。
可愛い山 (新字新仮名) / 石川欣一(著)
それを語尾一つ曖昧あいまいにせずに、はっきり言う。純一は国にいたとき、九州の大演習を見に連れてかれて、師団長が将校集まれの喇叭ラッパを吹かせて、命令を伝えるのを見たことがある。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
間の延びた物哀ものあわれな角笛の音律を聞くともなく聞いていたのであったが、意識がようやく醒めて来るに従って、節まわしが少し巧者過ぎるから喇叭ラッパではないか知らんなどとも疑ったりした。
リギ山上の一夜 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
ふたたび聞える戦闘喇叭ラッパの声、勇ましいひびきが宵やみの中へ消えてゆく。
昭和遊撃隊 (新字新仮名) / 平田晋策(著)
それはわたしの耳には最後の審判の日の喇叭ラッパのようにひびいたのです。
最後の審判の喇叭ラッパでも待つように、ささやきもせず立ち連なった黄葉の林。それらの秋のシンボルを静かに乗せて暗に包ませた大地の色は、鈍色の黒ずんだ紫だった。そのたけなわな秋の一夜のこと。
フランセスの顔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
再びこのへやは深々とした沈黙に支配されて、それまでは、耳に入らなかった潮鳴りが耳膜を打ち、駅馬車の喇叭ラッパの音が、微かに聴えてきた。
潜航艇「鷹の城」 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
オーケストラの、風変りなことは、サンフランシスコで聞いた支那楽以上であるが、あの耳をつんざくような喇叭ラッパの音がしないことは気持がよい。
そのうちに福岡にも鎮台が設けられて、町人百姓に洋服を着せた兵隊が雲集し、チャルメラじみた喇叭ラッパを鳴らして干鰯ほしいわしの行列じみた調練が始まった。
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
遠くで喇叭ラッパが響いて、耳の端でわーっと騒ぎ出した、爪立ってそっちを見ると、行列が狭い往来を一杯にねって来る。
スウィス日記 (新字新仮名) / 辻村伊助(著)
やがて明治御一新後十年、高座に乗合馬車の御者の真似して喇叭ラッパを吹き、今にラッパの圓太郎と諷わるるはじつにこの萬朝だったのであるが、それはまだまだ後のお話。
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
竜宮風の城砦が今まさに炎上しつつある赤と黒とのすさまじい煙の前面で、カーキ服の銃剣、喇叭ラッパ、聯隊旗、眼は釣り上って、歯を喰いしばりの、勇猛無双の突貫突貫、やあ
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
三つの洋車は、ぽそぽそと喇叭ラッパもならさず、人ごみの中を引いて行かれた。俥夫は、強制的に狩り出された。一度罪人を運ぶと、一生涯運気が上がらない。そういう迷信があった。
武装せる市街 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
「総員起し」の喇叭ラッパが、艦の隅から隅へとひびくのであった。水兵たちは、また元気に甲板上を、そうして狭い艦内をとびまわる。平生とは、なんの変ったこともない風景であった。
浮かぶ飛行島 (新字新仮名) / 海野十三(著)
城砦じょうさいの模型、軍船の模型、洋刀の模型、背嚢はいのうの模型、馬具の模型、測量器、靴や軍帽や喇叭ラッパや軍鼓や、洋式軍服や携帯テントや望遠鏡というようなものが、整然として置かれてあり
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
内部は一間きりの広々とした四角な部屋で、大きな囲炉裏いろりの壁の上には、鹿の首や、賞牌メダイユや、ひからびた姫鱒ひめますや、喇叭ラッパ銃や、そのほか訳のわからぬものが無数に飾り付けられてあった。
伯父さんは聾耳つんぼである。つんぼもつんぼもかなつんぼだ。唯話をしたって通じない。お前は馬鹿だよと言っても笑っている。喇叭ラッパのようなものを耳に当てがって、大きな声を出さなければ聞えない。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
あらしに消ゆる喇叭ラッパの声を聞かざりしか。
親のすねを噛じって野球をやったり、女給の尻を嗅ぎまわったり、豆腐屋の喇叭ラッパみたいな歌を唄ったりした功労によって卒業免状という奴を一枚貰うと
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
喇叭ラッパの揺動と高音とは、よしんば吹きようが拙劣でも、必ず景気のいいものだが、而も批評的にいうと、演奏の十中八、九までは、我国の田舎のあたり前の楽隊が
私が彼女と吹き込んだ時代はたいていどこのレコード会社もいまだいわゆる喇叭ラッパ吹き込みだった(ビクターへ吹き込む頃になってやっと各社とも今日の電気吹き込となった)
わが寄席青春録 (新字新仮名) / 正岡容(著)
「ええ、今度は新潟甚句。」「ええ、さてその次といたしまして三がい節。」「関の五本松。」「さのさ。」「喇叭ラッパぶし。」「キンライライ。」「へらへらへ。」「八木ぶし。」
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
喇叭ラッパを吹いてる男もあった、彼等の野良への出かえりに、声をそろえて歌う国歌には
スウィス日記 (新字新仮名) / 辻村伊助(著)
とつぜん喇叭ラッパが鳴り響いた。総員整列だ。時計を見ると出発まで、あと三十分だ。
宇宙戦隊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
壁には、子供がかぶるピエロの帽子。卓には、オモチャの喇叭ラッパや模型の海賊船ヴァイキング・シップ
「太平洋漏水孔」漂流記 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
物置きに投げ込んであった喇叭ラッパ銃に煙硝と鹿ちのばら玉をあふれるばかり詰め込み、わらをたたいて詰めをし、窓の隙間から筒口を出して昨夜ゆうべ幽霊が退場した雑木林の入口に見当をつけ
酒は、ビンから喇叭ラッパのみにして、八人の口から口にまわった。兵士たちの、うまそうな、嬉しげな様子を見ると、とうとう深山軍曹も手を出した。そして、しまいには酔った。眼のふちが紅くなった。
前哨 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
昨年の秋あたり、制服の詰め襟の背を割いて、袖口を腕の処よりも広くした、所謂喇叭ラッパ袖を尾行して行くと、大抵不良行為を発見したと、警視庁の捜索課では云う。
東京人の堕落時代 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
かの乗合馬車の御車の口真似して喇叭吹き鳴らし、俗に喇叭ラッパの圓太郎。滑稽音曲噺の達人。
随筆 寄席囃子 (新字新仮名) / 正岡容(著)
それから野山羊のやぎ、……こいつがまた変ったやつでしてね。毎朝自分の方からのこのこやって来ちゃ乳を置いて行くんです。いずれそのうちに喇叭ラッパを吹いてやって来るようになるだろう、って話です。