のろい)” の例文
そして、むすめのまごころの力で、なが年とけなかった魔法ののろいがとけて、ほんとうの姿にかえられたことを、よろこんでいました。
若し僕の想像が確だとすると、この事件には実に恐しい人物が介在している。そいつののろいが事件全体を非常に複雑なものにしている。
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
秋川一家に対する「のろい」の Leitmotivライトモチーブ が奏せられている限り、どうしても同一人の仕業と思わなけりやならん。とすればだ。
殺人鬼 (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
夥しい書籍が——数百枚の重い粘土板が、文字共のすさまじいのろいの声と共にこの讒謗者の上に落ちかかり、彼は無慙むざんにも圧死した。
文字禍 (新字新仮名) / 中島敦(著)
ただ、各編隊を通じて十機あまりは、雲にまぎれて戦闘の攻撃機をのがれ、東京へ東京へと、のろいの爆音を近づけつつあったのだ。
空襲警報 (新字新仮名) / 海野十三(著)
彼は泥烏須デウスを念じながら、一心に顔をそむけようとした。が、やはり彼の体は、どう云う神秘なのろいの力か、身動きさえ楽には出来なかった。
神神の微笑 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ただわずかな間に消えてしまったことが、まるで秘境「悪魔の尿溜」ののろいのように、マヌエラさえ思うよりほかになかった。
人外魔境:01 有尾人 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
そこで鋼鉄の弾丸と一緒になって、こまかく細く、はげしい音にのろいの声を叫びながら、砕かれました。そうして焼かれて、立派にセメントとなりました。
セメント樽の中の手紙 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
と、俺は一夜鬱積した酒ののろいにたまりかねて、幾杯目かの觴を呑みほしたとたんに、憎むべき行者の楽天主義オプチミスムを打破しやうと論戦の火蓋を切つたのだ。
汽車のふえさては何とも知れず遠きよりきたる下界の声がのろいのごとく彼を追いかけて旧のごとくに彼の神経を苦しめた。
カーライル博物館 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「ところで、此間二階の戸袋に射込まれたという、白羽のを見せて下さい、出来ることなら、のろいの藁人形も」
しかし同じ源から出たエネルギーはせち辛い東京市民に駆使される時に苦しいうめき声を出し、いらだたしい火花を出しながら駆使者の頭上に黒いのろいを投げている。
電車と風呂 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
余程保存が良かったとみえて、墨色のせもすくなく、六朝風の達筆で「殺生谷の鬼火についての秘録」という題名の本に、恐ろしいのろいの事実が精しく書認かきしたためてあった。
殺生谷の鬼火 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
私はそれののろいについてのある話しを聞いています、が私はそれは気にかけていません。がしかし呪いがあってもなくても、真にある意味においてある陰謀があります。
と、いうようなのろい、愚痴。初めて、家を明けるのであるから、親爺の小言が恐ろしいが、そんな事は、丸で考えないで、しょげ、怒り、恨み、寒がって、夜を明かした。
死までを語る (新字新仮名) / 直木三十五(著)
この釘はうし時参ときまいりが、猿丸の杉に打込んだので、のろいの念が錆附さびついているだろう、よくお見。
湯女の魂 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
寂しいそのおうちへ時々おいでになります大将の関係から、どんなのろいを受けておいでになるかわからないのにあなたは病気だし、ちょうどこんな時に悪夢が続くので心配しています。
源氏物語:53 浮舟 (新字新仮名) / 紫式部(著)
丁度、今までかけられていた沈黙ののろいが解かれたように。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
島田に対してののろいには苦笑しますが。——
なぜならば、おそろしきのろいの爆薬の花籠は、やがてものすごい音響をあげて爆裂することになっているのであった。
爆薬の花籠 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それこそ、私はあの兄の恐ろしいのろいだと思うのです、彼奴きゃつは最初の瞬間からそれを知っていたのです。
クリストが、実際こう云ったかどうか、それは彼自身にも、はっきりわからない。が、ヨセフは、「こののろい心耳しんじにとどまって、いても立っても居られぬような気に」
さまよえる猶太人 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
本郷丸山本妙寺の庭で焼いたのろいの振袖が、一陣の狂風にあおられて寺の本堂の屋根に絡み、それが魔の火となって、見る見る本妙寺の七堂伽藍を焼き払い、火先は疾風に乗って
人数にんずが足りないかしら、もっとも九ツ坊さんと来りゃあ、恋ものろいもしますからね。」
開扉一妖帖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
もっとも、我事に於て後悔せず、という、こういう言葉を編みださずにいられなかった宮本武蔵は常にどれくらい後悔した奴やら、この言葉の裏には武蔵の後悔がのろいのように聴えてもいる。
青春論 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
そののろいをとくには、いつか心の清いおとめが、わたしのみにくい姿かたちをわすれて、まごころからいたわってくれるまで、待たなくてはならなかったのです。それがあなただったのですよ。
「シャロットの女を殺すものはランスロット。ランスロットを殺すものはシャロットの女。わが末期まつごのろいを負うて北のかたへ走れ」と女は両手を高く天に挙げて、朽ちたる木の野分のわきを受けたる如く
薤露行 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
恐るべきのろいの女は、用意の毒薬を服し、線路によこたわって、名誉の絶頂から擯斥ひんせきの谷底に追い落され、獄裡ごくり呻吟しんぎんするであろう所の夫の幻想に、物凄い微笑を浮べながら
一枚の切符 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
それが何故、彼ひとりクリストののろいを負ったのであろう。あるいはこの「何故」には、どう云う解釈が与えられているのであろう。——これが、自分の第二の疑問であった。
さまよえる猶太人 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
明らかにヘンリエッタ・スミスソンに対する激情とのろいとを書いたものである。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
一枝の目はのろいをかける妖婆のように光った。そして、云った。
と、のろいの声を発しつづけていた。
地中魔 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ほのおのようにキラキラと照り耀かがやき、その満々と水をたたえた球形の玻璃瓶を貫いて、太陽の光線は一層強烈となり、机の上に置かれた火繩銃の上に、世にも怖ろしいのろいの焦点を作り初めた。
火縄銃 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
が、のろいを負うようになった原因については、大体どの記録も変りはない。
さまよえる猶太人 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
それとも又、実は何でもない写真が、平田氏の目にけあんな風に見えたのだとしても、それではいよいよ辻堂ののろいにかかって、気が変になり始めたのではないかと、一層恐しく感ぜられるのだ。
幽霊 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)