厄介者やっかいもの)” の例文
意志というと言葉がはなはだよく聞こゆるも、何ごとについても明白なる意思を発表するものは神経質かあるいは小心なる厄介者やっかいものである。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
結句、今では、妹たちの厄介者やっかいものになっていますが、出戻りの女って、世間は狭いし、うちの中は面白くないし、ほんとに、鬱々くさくさしちまいますよ
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あの子の生きている間は、しょせん太郎の厄介者やっかいものとしておこう、と考えて、しいてやかましくしつけようともしなかった。
自分ちにも食べざかりの子供がいるのに厄介者やっかいものの私が食べるもんだから、物要ものいりで物要りで仕方がないっていうのよ。
女の一生 (新字新仮名) / 森本薫(著)
津田は送別会という名のもとに、彼らの出会うべき日と時と場所とを指定した後で、ようやくこの厄介者やっかいものを退去させた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼女は厄介者やっかいもの扱いにしている様子が見えたが、いつの間にかその差別観が、月々の小遣いとか、衣裳持ち物の末にまで、はっきり現れるようになった。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
僕は、象牙ぞうげのように真白な夫人の頸筋くびすじに、可憐かれん生毛うぶげふるえているのを、何とはなしに見守りながら、この厄介者やっかいものから、どうして巧くのがれたものかと思案しあんした。
人造人間殺害事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
親戚しんせきの家を転々して育って、自分の財産というものも、その間に綺麗きれいさっぱり無くなっていて、いまは親戚一同から厄介者やっかいものの扱いを受け、ひとりの酒くらいの伯父おじ
竹青 (新字新仮名) / 太宰治(著)
徳川を擁護ようごするのと、それを倒そうとするのとが、天子おわすところでみ合っている——その間にからまるのが攘夷じょうい。志士を気取って勤王を看板に、悪事を働く厄介者やっかいもの
それに御存じの通りの為体ていたらくで、一向支度したくらしい支度もありませんし、おまけに私という厄介者やっかいものまで附いているような始末で、正直なところ、今度のような話を取り逃した日には
深川女房 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
その友は二人分の手荷物をかかえて、学生は例の厄介者やっかいものを世話して、はしけに移りぬ。
取舵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
自分で厄介者やっかいものだっていうことがわかったら、そうして、水をれたなべを火へかけてかすこともできんようになったら、そん時ゃ、さっさと、ひとりで、追い出される前に出て行きますよ。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
長湯をしたと言って怒ったのがもとで、アクザモクザののしった果てに、何か厄介者やっかいものでも養っていたようにくやしがって、出て行け、今出て行けと呶鳴どなったことなども、我ながら浅ましく思われた。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
どうせ義雄さんの方から節ちゃんの食い扶持ぶちが行く訳ではなかろうし、台湾の伯母さんから見れば厄介者やっかいものが一人舞込むようなものだからねえ。男はそこへ行くと大ざッぱだが、女の人はこまかいから。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「帰って厄介者やっかいものれて来よう」
藍瓶 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
ところが、この二月以来、とんでもない厄介者やっかいものが、戻って来た。泰子である。何と意見してみても、ふたたび今出川へは、帰ろうといい出さない。
そんなことでは結局一生子爵家の厄介者やっかいもので終ることになるし、それではどうも心細いので、その辺を何とかもう少し、安心出来るようにして貰えないものであろうか
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
克明こくめいに頭を下げて頼むので、番頭は飛んだ厄介者やっかいものと言わぬばかりに小僧にあごを向け
学生の隣にすくみたりし厄介者やっかいもの盲翁めくらおやじは、このとき屹然きつぜんと立ちて、諸肌もろはだくつろげつつ
取舵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あぶなく串刺くしざしになるところを、あッと踏み退いた雲霧は、この時初めて、勘定に入れなかったこのチビが手強てごわ厄介者やっかいものであったのに気が着いて
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、同情的な口吻こうふんのうちに、延や儀の人物を嘲評ちょうひょうしていたという話もあるが、たしかに、この二人物は、蜀陣営の中の、いわゆる厄介者やっかいものにちがいなかった。
三国志:12 篇外余録 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
うちの良人ひとが拾って来て、店まで持たせてやっている厄介者やっかいものの石秀——と見、巧雲は彼の眼のいろなど、気にしてもいなかったろう。心はただイソイソと先にある。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この厄介者やっかいものをなんに利用しようとするのか、むんずと横脇よこわきにひっかかえて馬の鞍壺くらつぼにとびあがり、つるべうちの鉄砲を聞きながして、人無村ひとなしむらからやみ裾野すそのへ、まッしぐらに、逃げおちてしまった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
信長は、諸国で厄介者やっかいもの扱いにされて来たこの亡命の将軍家を、自身、国境まで出迎えた。城門では、そのくつわさえ取って、大賓たいひんの礼を執った。人はわらうも、彼は、義昭の駒のくつわを取ったとは思うまい。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
親鸞はいとも自然に「それはお互いさまですよ、この親鸞だって」と何のかざりもなくやすやすといってくれているので、あのひとですらそうだったかとおもい、以後どれほど、自分という厄介者やっかいもの
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)