そく)” の例文
つまりさ、君が、日常よろこんだり、怒ったり、考えたり、悲しんだりすることがあるだろう。その最も君にそくしたことを書けって言うんだ。
かの女の朝 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
上皇の、この御一言に、うるさがたの公卿沙汰ざたも、一応は、退きさがったが、しかし陰性は、そく公卿性である。決して、んだわけではない。
その、落ちるところを空に引ッ掴んで、チャリイン! 丹波の突きを下からね上げながら、そくひょうのように躍って横地半九郎へ襲い掛った。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
中には生別せいべつそく死別しべつとなった人も一二に止まらない。生きては居ても、再びうや否疑問の人も少くない。此杉は彼にとりて見送みおくりの杉、さては別れの杉である。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
すべてそうしたことは、かれのこれからの生活の事実にそくして判断するよりほかはないであろう。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
兵馬の姿が明らかに見える! ということが小次郎にとっては、そく恐ろしいことであった。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
して見ると、劉はそく酒虫、酒虫は即劉である。だから、劉が酒虫を去つたのは自ら己を殺したのも同前である。つまり、酒が飲めなくなつた日から、劉は劉にして、劉ではない。
酒虫 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
一切空だと悟ったところで、くうはそのまましきそくした空であるかぎり、煩わしいから、厭になった、きらいになった、つまらなくなったとて、うき世を見限ってよいものでしょうか。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
譬えばスナワチということばにもそくの字があり、ないの字があり、そくの字があり、便べんの字があり、ヨルという詞にもいんの字があり、の字があり、えんの字があり、ひょうの字があり、きょの字があり
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
前にも云う通りついでだから分化作用にそくして彼らの使命の一端をげたのに過ぎんのである。したがって文学全体にわたっての御話をするときには今少し概括的がいかつてきに出て来なければならぬ訳です。
文芸の哲学的基礎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
まぎれもない弥陀如来みだにょらいのすがただ。もちろん、精巧ではないが、童心そく仏心である。どんな名匠の技術でも生むことのできないものがこもっている。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すぐ社会運動にそくするし、芸術的モーションを抱いてる人は芸術的の創作に即するという様に昔の女性は何となく一つの新しいということの憧憬があった。
新時代女性問答 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
そこを、踏みこたえた泰軒、剣を棄てて四つに組む——と見せて、そくに腰をひねったからたまらない。あおりをくった岡崎兵衛、もろに手を突いて地面をなめた。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
されど一事いちじそくし、一物いちぶつするのみが詩人の感興とは云わぬ。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「誰がって親分、とぼけちゃいけねえ、犯人ほしさあね、辰さ。とんぼの畜生、おいらがお菊坊をばっさりやったに違えねえと、ねえ親分、そくに口を割りやしたろう、え?」
けれど北条氏百数十年らいの六波羅政庁の陥落は、そく、無政府状態を発生していたことなので
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もちろん、僧そく兵。——ここにも南都、叡山えいざんに劣らない法師武者が充満しているのである。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
といいじょう発見みつけた以上は役目柄叱らない訳にもいかず、そんなことをしていては日もまた足らずなので、そこで歴代の大目附が、経験と必要にそくして案出したのがこの咳払いである。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
われら城中の者を、不愍ふびんと思し召され、まことに御仁慈のこもった御命ではありますが、この一城は、今や全中国のかなめ、高松の落ちることは、そく、毛利家の失墜を意味します。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「まあよい。こっちのことは第二にして、お前さんも、そうやってわざわざ出て来なすったからにゃア、何か大切な用があってのことだろう? そいつを一つ、そくに聞こうじゃねえか」
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
総帥そうすいの在るを示して、この先鋒隊の位置が、そく、中軍となったことをあらわすのであった。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
何百万という読者は、それ自体そく“大智識”であると思う。郷土のこと、建築や服飾のこと、風俗、植物のことなど、何かしら各〻一つは作家よりも上手うわてな智識とか専門を持っている。
随筆 私本太平記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
六波羅の失陥は、そく、都の喪失である。鎌倉との連絡もこれからはおぼつかない。
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼のいるところそく本営といってよい。その本陣は堀川にとどまっていた。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
(この人のために尽すことは、そく、世のために報ずることだ)
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それはそく、准后の廉子やすこへたてをつくことにもなるからだ。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
山に近代を附加すると、山はそく、下界になった。
随筆 私本太平記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
蜚語流言ひごりゅうげんを放つものそく死罪しざい
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)