半切はんきれ)” の例文
坂井の奥さんが叮嚀ていねいに説明してくれたそうであるが、それでもに落ちなかったので、主人がわざわざ半切はんきれ洒落しゃれ本文ほんもんを並べて書いて
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
お品は少し照れながらも、半切はんきれ硯箱すずりばこを借りて「大舟町市兵衛百四十四夜」としたため、きまり悪そうに平次の前に押しやりました。
俊助は野村の手紙をひらいた時、その半切はんきれうずめているものは、多分父親の三回忌に関係した、家事上の紛紜ふんうんか何かだろうと云う、おぼろげな予期を持っていた。
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
封じ目を固くして店の硯箱の上の引出ひきだし半切はんきれや状袋を入れる間へはさんで、母が時々半切や状袋を出すから、此処へ入れて置けば屹度目に入ろうと斯様に致し
行燈は前の障子が開けてあり、丁字ちょうじを結んで油煙が黒くッている。ふたを開けた硯箱すずりばこの傍には、端を引き裂いた半切はんきれが転がり、手箪笥の抽匣ひきだしを二段斜めに重ねて、唐紙のすみのところへ押しつけてある。
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
兄は洋卓テーブルの上の手紙を取って自分で巻き始めた。静かな部屋の中に、半切はんきれの音がかさかさ鳴った。兄はそれを元の如くに封筒に納めて懐中した。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「笑はなきや言ひますがね、天地紅てんちべに半切はんきれに、綺麗な假名文字かなもじで、——一とふでしめし上げまゐらせさふらふ——と來ましたね、これならあつしだつて讀めますよ」
あに洋卓てえぶるうへの手紙をつて自分でき始めた。しづかな部屋のなかに、半切はんきれおとがかさ/\つた。あにはそれをもとごとくに封筒に納めて懐中した。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
小六ころくには無論むろんわからなかつたのを、坂井さかゐおくさんが叮嚀ていねい説明せつめいしてれたさうであるが、それでもちなかつたので、主人しゆじんがわざ/\半切はんきれ洒落しやれ本文ほんもんならべていて
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
しかしいざとなって、半切はんきれを取り上げると、書く事はたくさんあるが、何から書き出していいか、わからない。あれにしようか、あれは面倒臭めんどうくさい。これにしようか、これはつまらない。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
机の抽出ひきだしを一つずつ抜いて、いつとなく溜った往復の書類を裂いては捨て、裂いては捨る。ゆかの上は千切れた半切はんきれで膝の所だけがうずたかくなった。甲野さんは乱るる反故屑ほごくずを踏みつけて立った。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
つづく雨のよいに、すこしやまいひまぬすんで、下の風呂場へ降りて見ると、半切はんきれを三尺ばかりのながさに切って、それを細長くたてりつけた壁の色が、暗く映るの陰に、ふと余の視線をいた。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
月が西に傾いたので、白い光りの一帯は半切はんきれほどに細くなった。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
津田はまた自分の前にいきな模様入の半切はんきれひろげて見た。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)