いさま)” の例文
あのしろ着物きものに、しろ鉢巻はちまきをした山登やまのぼりの人達ひとたちが、こしにさげたりんをちりん/\らしながら多勢おほぜいそろつてとほるのは、いさましいものでした。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
白紙の答案というものは、一応いさましく聴えますが、出す当人に取っては、まことに悲しききわみで、これほど悲壮なものはありません。
夫人 (莞爾にっこりと笑む)ああ、さわやかなお心、そして、貴方はおいさましい。あかりけて上げましょうね。(座を寄す。)
天守物語 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
すると、或王さまのところに、鹿のようにきれいな、そしてたかのようにいさましい、年わかい王子がいました。
ぶくぶく長々火の目小僧 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
遂々とうとう猪が飛出しました。猪はまったいさましいけだものでした。猪はほんとうにやっていって火をつけてしまいました。
赤い蝋燭 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
船員は、また力をあわせ、ボートをひきあげるやら、その怪しい筏をひっぱりあげるやら、ひとしきりいさましいけごえにつれ、船上は戦争のような有様だった。
幽霊船の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)
もう夕陽にいろどられた沖のほうから、いさましい櫓声ろせいがして、吾れさきにと帰って来た漁船からは、魚を眼まぐろしくあげて、それを魚市場の沙利じゃりの上へ一面に並べた。
妖影 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
種彦はただどんよりした初秋の薄曇り、このいさましい木遣の声に心を取られながらぞろぞろと歩いている町の人々とあい前後して、駒形こまかたから並木なみきの通りを雷門かみなりもんの方へと歩いて行くうち
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
這入はひりながらオイ/\貴樣はいさましき根性こんじやうだな日々一文づつ貰ひ居ながら稻葉丹後守樣の御屋敷へまかいづるなどとあま口巾くちはゞツたきことを云ものかなと大いにわらひつゝ文右衞門の容體なり
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
◯しかり、地はかかる大讃美の中にいさましく生れ出でたものである。すでにかかる地である。神が造りかつ治め給うかかる地である。かかる讃美の中に生れて神に治めらるるこの地である。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
ついに大池がいさましく立ちあがって、機械人間のそばへ寄り、しかりつけた。
超人間X号 (新字新仮名) / 海野十三(著)
台場だいば停車場ステエションから半道はんみちばかり、今朝けさこの原へかゝつた時は、脚絆きゃはんひも緊乎しっかりと、草鞋わらじもさツ/\と新しい踏心地ふみごこち、一面に霧のかゝつたのも、味方の狼煙のろしのやうにいさましく踏込ふみこむと、さあ、ひとひと
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
我がいさましき船頭は、波打際の崖をたよりに、お浪という、その美しき恋女房と、愛らしき乳児ちのみを残して、日ごとに、くだんかどの前なる細路へ、とその後姿、相対あいむかえる猛獣の間に突立つったつよと見れば
海異記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)