出羽でわ)” の例文
蠅の事に就いて今挙げた片倉小十郎や伊達政宗に関聯かんれんして、天正十八年、陸奥むつ出羽でわの鎮護の大任を負わされた蒲生氏郷がもううじさとを中心とする。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
柳湾は幕府の郡代田口五郎左衛門の手代てだいとなり飛騨ひだ出羽でわその他の地に祗役しえきし文化九年頃より目白台めじろだいに隠棲し詩賦灌園かんえんに余生を送った。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
○芭蕉が奥羽行脚の時に、尾花沢といふ出羽でわの山奥に宿を乞ふて馬小屋の隣にやうやう一夜の夢を結んだ事があるさうだ。ころしも夏であつたので
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
出羽でわの山形は江戸から九十里で、弘前に至る行程のなかばである。常の旅にはここに来ると祝うならいであったが、五百らはわざと旅店を避けて鰻屋うなぎやに宿を求めた。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
そのうち公儀御用というのが七軒、墨屋が三軒、格式のやかましかった時代で、大抵出羽でわとか但馬たじまとか豊後ぶんごとか、国名くになを許されて、暖簾のれん名にしております。
ここは出羽でわの国最上もがみこおりから、牡鹿おがの郡へぬける裏山道のうち、もっともけわしいといわれるやぐら峠である。
峠の手毬唄 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
わたくしどもはいったい出羽でわ羽黒山はぐろさんから出ました山伏やまぶしでございますが、このあいだ大和やまと大峰おおみねにおこもりをしまして、それからみやこへ出ようとする途中とちゅうみちまよって
大江山 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
東国の出羽でわ陸奥むつもその伝で二つに分れたと聞いている、昔、実方さねかた中将が、奥州へ流され、この国の名所、阿古屋あこやの松を見ようと尋ね歩いたが見つからなかった。
それからまた、文治ぶんじ五年九月に奥州の泰衡やすひらがほろびると、その翌年、すなわち建久元年の二月に、泰衡の遺臣大河次郎重任おおかわじろうしげとう(あるいは兼任かねとうという)が兵を出羽でわに挙げた。
かたき討雑感 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
讃岐さぬき高松の城主生駒壱岐守に、不羈ふき不行跡の数々があったために、その所領十七万石を没収されて、出羽でわの由利矢島に配流された事実は、つい最近のことだったからです。
菅江真澄すがえますみ、本名は白井英二秀雄、天明の初年に二十八で故郷の三河国を出てしまってから、出羽でわ角館かくのだてで七十六歳をもって歿するまで、四十八回の正月を雪国の雪の中で
雪国の春 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
家老職池田出羽でわに面会して、内密に落胤の事を談じ、表面は浪人御召抱えの嘆願という手筈を定めていたが、生憎あいにくその池田出羽が、天城屋敷あまぎやしき潮湯治しおとうじの為出向いているので
備前天一坊 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
「やすつな? やすつなもいろいろあるからな、出羽でわにもあれば、下坂しもさかにもあるし、薩摩にも、江戸にもあるんだ、出来のいいのもあるが、そんなに大したものじゃなかろう」
大菩薩峠:19 小名路の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
それに出羽でわと名づけた地域をふくめ、「奥羽おうう」の名でも呼ばれました。昔はえびす即ち蝦夷えぞが沢山住んでいた地方で、方々から出てくる石器や土器がその遠い歴史を物語ってくれます。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
一七四七年、出羽でわの上の山に生じた三十一ヵ村の百姓一揆も、おなじ種類のものであった。また一八二三年、紀伊きいの十三万人の百姓のおこした百姓一揆も、おなじ性質のものであった。
高時のことばに、彼が、はっと進みかけると、二階堂にかいどう出羽でわ入道にゅうどう道蘊どううん
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これを人身にたとうれば、陸奥むつ出羽でわはその首なり。甲斐かい信濃しなのはその背なり。関東八州および東海諸国はその胸腹、しかして京畿けいきはその腰臀ようでんなり。山陽南海より西に至ってはのみ、けいのみ
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
むかしの、出羽でわ郡司ぐんじの娘、小町の容色をひく錦子も、真っ白な肌をもっている、しかも、十七の春であれば、薄もも色ににおってくる血の色のうつくしさに、自分でも見とれることもあるのだった。
田沢稲船 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
その杉林を越して、向うに、ひろびろとした眺望がひらけ、平野のかなたには黒川郡の山やまや、出羽でわの国の山なみが、早春の午後の光のなかに、くっきりと青く見えた。
一例を言うと出羽でわ庄内しょうない鶴ヶ岡である。これはツルガオカであるが、諸方から入り込む人がツルオカと呼ぶために今では土地の人までも自らツルオカというようになってしまった。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
先祖は出羽でわの国から出て来たとかいうことで、家号は山形屋といっていました。
青蛙堂鬼談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
秋田の大館おおだてから津軽へ越える官道に矢立峠がある。すなわち陸奥むつ出羽でわとの最北の国境である。文化五年の紀行とて『地名辞書』に引用せる『終北録』にはこれに関する伝説を載せている。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)