しあわ)” の例文
自分にすぎた筒井であっただけまばゆいばかりの妻を得ていることが、どういうしあわせにも増して底の深い倖せであったことであろう。
津の国人 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
「御同様に、ざまはない。だが女嫌いの御辺が持つより、やはり花は風流なあるじの室がいいかもしれぬ。花もしあわせにちがいない」
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
世の中の美しいこと、嬉しいこと、しあわせなこと、そういうものを何一つ信じたことのない叔父さんが姉さんに対して讃美を惜しまないというのは。
女の一生 (新字新仮名) / 森本薫(著)
「有難いしあわせでござります。お退屈でござりましょうが、ハネるまでこの楽屋ででも御待ち下さりませ」
詩を書いていたところで、一生うだつがあがらないし、第一飢えて干乾ひぼしになるより仕方がない。私が、栗島澄子ほどの美人であるならば、もっとしあわせな生き方もあったであろう……。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
女房のカツレツを満足して食べ、安眠して、死んでしまう方がしあわせだ。
青春論 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
「そう運べば、この上のしあわせはない」
無惨やな (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
お通さんにも、このまま会わぬ方が、行く末になってみれば、あの人のしあわせになり、武蔵の気持も、その時には、よく分ってくる筈だ。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
小豆があったからには我らは永くしあわせになるだろうと男がいえば、女はお手玉の五枚のきれを叮重ていちようにたたんで、そしてあやまるようにいった。
津の国人 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
とるに足らないと思っていた自分の妹風情の恋のしあわせが、天下将軍じきじきのお裁きで、執拗しつような邪悪の手から救われたことのよろこびが、頑丈なその胸をくい破ったのです。
そうじゃないンだ。あンたはしあわせな人だって云うンだよ。男の仕事って辛いもンだから、つい、そンな事を云ったのさ。いまの世は、あだやおろそかには暮せない。うか喰われるかだ。
晩菊 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
きっとしあわせになりますよ。
女の一生 (新字新仮名) / 森本薫(著)
しかるとせば、不肖ながら、佐々木小次郎も、久しく伝家の物干竿ものほしざおに生血のぎを怠っていたところで——勿怪もっけしあわせといいたいのだ。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あなたさまは本統ほんとうにお健やかでおわすのでしょうか、それならそれ以上のしあわせはないとしても、ひょっとしたらお健やかでないのではないでしょうか
津の国人 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
いのちがあるだけしあわせじゃ。早う飛んで帰って腰本治右にしかじかかくかくとあることないこときまぜて申し伝えい。アッハハ。……ずんと涼しゅうなった。梅甫夫婦また来てやるぞ。
「ほかじゃねえが、お前が懇意こんいなのは何よりしあわせ。旅川周馬のやつをだまして、お千絵様をこの屋敷から誘い出してくれねえか」
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「滅、滅、滅相もござりませぬ。ははっ……、なんともはや、ははっ……、不、不調法にござりました。何とぞお目こぼし給わりますれば、島津修理、身のしあわせにござります。ははっ、こ、この通りにござります」
「でも、又太郎さま。あなたのお眼で見た私の姿をそのまま、どうぞ母へおつたえ下さいまし。覚一は、このようにしあわせでおりますことも」
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
反対に、魏にとっては、この小さな一機智が、実に大きなしあわせだったといえる。もしこの時、廖化が仲達の機智を見破って
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
掏摸すりという兇状をもった姉は、あの妹弟きょうだいたちにもない方がいい。ただ、どうぞ、しあわせであっておくれ、いいをまッすぐに育っておくれ……。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
きょうはお供をいたしながら、諸所一見できるのも、時あってのしあわせとぞんじまして、後をお慕いして来ました。源右どの、さあお先へお立ちなさい
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
……いずれは、勝家、一益などがくどくど申すであろうが、お許の耄碌もうろくこそしあわせ、耳の遠い顔して、何事も聞きながし、そのまま関へ立ち帰るがよい
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「そんなことがあるものかね。たとえ、お施米せまい小屋のような中へ、わらをかぶって寝ればとて、みんなで一緒に暮らしているほど、しあわせなことはないんだよ」
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
……どうですえ、兵隊さん、おめえっちは、まだ、お旗箱とかを、仕舞いくしたという罪が分かって死ぬんだから、よっぽど、俺から見れやあしあわせだぜ。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一切いっさい理由わけが、そこで、分ったよ。……お通さん、あのことは、むしろ其女にとってはしあわせじゃないか」
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「玄蕃は早やたのむに足らぬ。この上は、勝家みずからここに踏みとどまり、存分の一合戦してみしょうぞ。うろたえな、さわぐな、筑州、これに来らば、むしろしあわせ」
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
藤吉郎は、家康のしあわせを羨望せんぼうしたが、素直に退さがって、自分の人数を、総軍第四番手に備え立てた。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
思うお人に向っては、女は、怖ろしいほどこまかい心を配っております。けれど、義理の妹の恋を奪って、それで、私ひとりがしあわせになろうなどとは夢にも思やしませんの。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
……なあお通、世間を狭くしてまで、無理に武蔵と添ってみたって、しあわせに暮せるはずはないぜ。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
むしろ、嫁いでまもないうちに、良人と共に、良人の信行しんぎょうの道へ、こうして、忍苦をひとつにすることができた身を、しあわせとも、妻の大きな欣びとも、思うのであった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「あれほどな父を持ち、これほどな恩師を持ち、そちはよほどしあわせ者だ。さだめし行末よい武勲ぶくんを持つだろう。重治にいて中国へけ。信長がその初陣ういじんを祝うてとらせる」
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こののどかな社頭しゃとうで、娘を連れた母、孫をともなう老人、幼い者をよろこばしている年上の者などを見ると、やはり、家をもつ人、愛の持ちあえる人たちは、いいなあ、しあわせだなあ
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
鳥なき里の蝙蝠こうもりとかで、自分以上な者はないと、何ともかとも、手のつけられん小伜こせがれじゃ。ひとつその増上慢ぞうじょうまんの鼻を、折ッぴしょッてくだされば、いっそ、当人にはしあわせというもんじゃろ
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ただしあわせなことには、秋の月がまんまると空にある。啼きすだく虫の音がある。こんな夜にお通は笛をふくのが好きだったと思う。……虫の音が皆、お通の声、城太郎の声に聞えてくる。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
景時の人物がまともだったら、相互のしあわせだったろうが、武あり智あり弁舌ありという傑物で、大日本史の語をかりていえば、狡獪こうかいにして陰険、しかも和歌をたしなむという複雑な才人である。
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ははあ、そんなことですか。もし戦陣なら親のかばねをふみ越えてさえ戦うのが武門のつね。たたみの上でみまかった父の死水しにみずを取って、征途にのぼれるなどは、まだしあわせではございませぬか」
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それをわざわざこの岐阜までお越し下されたことは、何たるしあわせかわからん。きょう町の辻にて、御辺の家人けにんからご書面をいただいた折、ひょっと同姓異人ではないかと怪しんだほどでござった。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「御帰陣の後、御一読を得ますれば、ありがたいしあわせにぞんじまする」
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いや何。あの子供は仔細あってわしが以前に見かけたことのある者。来合せたのがしあわせであった。それよりは、どうして当家の厄介になっておるか、それはまだ伊織からも聞いてはおらぬが……」
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして何かの時は、お力になっていただければしあわせというもの
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「オ、四郎。おことは心の眼がさめたの。何というしあわせな男ぞ」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
斉王は廉直な臣をもってしあわせであると感心させたとかいう。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「それは、何ともしあわせでした。他の服役者にくらべれば」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いい跡継あとつぎじゃ、半蔵殿も、おしあわせなこッちゃで」
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もってしあわせだと、母に欣んでもらいたいと思う
日本名婦伝:太閤夫人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「お袖がほんとにしあわせになるのでなければ、切れ状は書けません。もとはといえば、罪はまったく、この市十郎にあることで、水茶屋奉公はしていましたが、それまでの、お袖は、真白い絹のような処女おとめだったのですから」
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「立身しても、やっと百石、百石とっても、食えるだけだ。二本差して、威張ったところで、百石侍は、うじほどいるし、このごろ、世間も侍は流行はやらない。——後継あとつぎは、弟が適任、お照も、里へ帰った方がしあわせだ……」
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「でも気がつかなかったからしあわせさ」
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「わしはしあわせ者よ」
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しあわせになれよ。
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)