佳肴かこう)” の例文
そこに並んだのは、美酒と佳肴かこうと数十基とも知れぬ銀燭ぎんしょくと、そして、十二三から二十五六までの一粒りの美女が二十人ばかり。
と、ある限りの湯女を一席にあつめ、ある限りの酒と佳肴かこうそなえて、介三郎をもてなそうとしたが、介三郎はほどよくかれを外へ連れ出して
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
土井の出て行った後で、私は下宿のまずい晩飯のはしを取った。……彼らの美酒びしゅ佳肴かこうの華やかな宴席を想像しながら。が土井は間もなく引返してきた。
遁走 (新字新仮名) / 葛西善蔵(著)
悪く評すれば文明を珍膳佳肴かこうのごとく考えて、一箸ずつはめ試みる神農主義、たとえばこの辺の何文堂の店に、日蓮・大本・忍術・姓名・哲学の類から
雪国の春 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
卵から出た幼虫は親のぜんをしておいてくれた佳肴かこうをむさぼり食うて生長する、充分飽食して眠っている間に幼虫の単純なからだに複雑な変化が起こって
簔虫と蜘蛛 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
卓上の銀燭ぎんしょく青烟せいえんき、垂幕すいばくの金糸銀糸は鈍く光って、寝台には赤い小さな机が置かれ、その上に美酒佳肴かこうがならべられて、数刻前から客を待ち顔である。
竹青 (新字新仮名) / 太宰治(著)
最初にすっぽん肉羹スープが出、つづいて牛脇腹うしわきはら油揚コツレツ野鴨全焼ローチという工合に次から次に珍味佳肴かこうが運び出される。
手摺てすりからマストまで紅白の布で巻き立てて、毛氈もうせん絨壇じゅうたんを敷き詰めた上に、珍味佳肴かこうが山積して在る。
爆弾太平記 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
しきりに歎息しける時お登和嬢は日本料理の御馳走が出来たりとて食卓てーぶるの上へ珍味佳肴かこうを運び来る。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
今日はこうして扶桑ふそう第一といわれる風景のところに、絶世の美人で、そうして一代の詩人に迎えられて、水入らずにお月見——美酒あり、佳肴かこうあり、毛氈もうせんあり、文台がある。
大菩薩峠:34 白雲の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
十一ぐわつの二十八にち旦那だんなさまお誕生日たんぜうびなりければ、年毎としごと友達ともだち方々かた/″\まねまいらせて、周旋しうせんはそんじよしやうつくしきをりぬき、珍味ちんみ佳肴かこううちとけの大愉快おほゆくわいつくさせたまへば
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
がいして、たいのような赤色皮の魚がよい。青黒色の魚はなんであっても感心しない。しかし、青黒皮のはもは例外の佳肴かこうである。要するに、焼き魚という条件を中心にして工夫すべきである。
内容は密会であるが、形式は金吾家のこころ祝いというわけで、座にはきらびやかに屏風びょうぶをめぐらし、煌々こうこうしょくを列ね、さすが特別収入のある連盟だけに、美酒佳肴かこう配膳はいぜんにもぬかりはなかった。
思い違い物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
さりながら黒衣ぬし、今日は和主は客品かくぼんにて、居ながら佳肴かこうくらひ得んに、なにを苦しんでか自らかりに出で、かへつてかかる危急き目に逢ふぞ。毛を吹いてきずを求むる、酔狂ものずきもよきほどにしたまへ。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
先刻とはべつな閣室に、花を飾り、美姫をめぐらし、善美な佳肴かこうと、紅酒黄醸こうしゅこうじょうの瓶をそなえて、曹操は、彼を待っていた。
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
珍味佳肴かこうを供し、華美相競うていたずらに奢侈しゃしの風を誇りしに過ぎざるていたらくなれば、未だ以て真誠の茶道を解するものとは称し難く、くだって義政公の時代に及び
不審庵 (新字新仮名) / 太宰治(著)
それは困る……折角今日まで美酒佳肴かこうをさしあげて、貴殿の精をよくしておいたのに、今になってお食事が細ると、貴殿の人胆の効目ききめがうすくなる。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして信長の一顧いっこの言、或いは一笑にでも触れて退がれば、献物の珍器宝什ほうじゅうや美酒佳肴かこうの百倍千倍にも値いするものを獲たような歓びを抱いてみな帰り去るのである。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かつ席をあらためて、酒宴をひらき、成都の美酒、四川の佳肴かこう、下へもおかずもてなした。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼らの卓は、たちまち、次々と運び出される佳肴かこうで埋まった。うま煮、焼肉、丸揚げ、菜汁、果盆かぼん。こなたの武行者が、ちらちら横目で見たぐらいでは、品数もかぞえきれない。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
指物師の上手に作らせた五尺ほどな小棚の多い水屋棚みずやだなを作らせ、それに数々かずかずな珍味佳肴かこうを入れ、爼板まないた庖丁ほうちょうのたぐいまで、ふさわしいのを添え、或る折、田沼の慰めに送ったらしい。
美しい日本の歴史 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
玄徳は、敵の虜将たる二人を、美酒佳肴かこうの前にならべて置いてこういった。
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一樽ひとたるの美酒と、幾重ねの佳肴かこうなどが、舟から舟へ手渡された。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)