佗住居わびずまい)” の例文
裏路地うらろじ佗住居わびずまいみずかやすんずる処あらばまた全く画興詩情なしといふべからず、金殿玉楼も心なくんば春花秋月なほ瓦礫がれきひとしかるべし。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
落城後らくじょうごわたくしがあの諸磯もろいそ海辺うみべ佗住居わびずまいをして時分じぶんなどは、何度なんど何度なんどおとずれてて、なにかとわたくしちからをつけてくれました。
二人だけの佗住居わびずまいを淋しがる彼女ではなかったのに、何かの異常なものの予感に堪えきれなくなったらしい。だが、それが何であるかは、彼にはまだ分らなかった。
苦しく美しき夏 (新字新仮名) / 原民喜(著)
彼女の立ちすぐれた眉目形みめかたち花柳かりゅうの人たちさえうらやましがらせた。そしていろいろな風聞が、清教徒風に質素な早月の佗住居わびずまいの周囲をかすみのように取り巻き始めた。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
建てつけの悪い窓を、やっとあけると、葡萄棚の下に鶏が三羽、埃の中に膨らんで、背戸の松薪の、山のようなのも山家らしい佗住居わびずまい、日はまだあるが、鼠に曳かれそうで心細い。
スウィス日記 (新字新仮名) / 辻村伊助(著)
同十五年には今までの古い家を壊して、その跡に新築することになり、そばにあった小屋で一冬を過すことになった。郷里から次姉が迎えられたが、この不自由な佗住居わびずまい炊事すいじの手伝をしていた。
見る蔭もない茅屋ぼうおく佗住居わびずまいを致して居ります、此のとも幾久しく……
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
虚言うそと思うなら目にも三坪の佗住居わびずまい。珍々先生は現にその妾宅においてそのお妾によって、実地に安上りにこれを味ってござるのである。
妾宅 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ははほうでもわたくし諸磯もろいそ佗住居わびずまいにくすぼりかえっていたときくらべて、あまりに若々わかわかしく、あまりに元気げんきらしいのをて、自分じぶんことのようにこころからよろこんでくれました。
草深いその佗住居わびずまい——佗住居と妻は云っていた——には、夏になると、いろんな昆虫がやって来た。
吾亦紅 (新字新仮名) / 原民喜(著)
有助貴様も己と根岸に佗住居わびずまいをしていた時を思えば、元々じゃアないか
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
潜門くぐりもんの板屋根にはせた柳がからくも若芽の緑をつけた枝をたらしている。冬の昼過ぎひそかに米八よねはちが病気の丹次郎たんじろうをおとずれたのもかかる佗住居わびずまい戸口とぐちであったろう。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
あなたとわたくしとはおさな時代ときからのしたしい間柄あいだがら……ことにあなたが何回なんかいわたくし佗住居わびずまいおとずれていろいろとなぐさめてくだされた、あの心尽こころづくしはいまもうれしいおもひとつとなってります。
秋の雨しとしとと降りそそぎて、虫の次第に消え行く郊外の佗住居わびずまいに、みつかれたる昼下ひるさがり、尋ねきたる友もなきまま、独りひそかに浮世絵取出とりいだして眺むれば、ああ
浮世絵の鑑賞 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
何故なぜというに神社の境内に近く佗住居わびずまいして読書にみ苦作につかれた折そっと着のみ着のまま羽織はおり引掛ひっかけず我がの庭のように静な裏手から人なき境内に歩入あゆみいって
青山竜巌寺の松は北斎の錦絵『富嶽卅六景ふがくさんじゅうろっけい』中にも描かれてある。私は大久保の佗住居わびずまいより遠くもあらぬ青山を目がけ昔の江戸図をたよりにしてその寺を捜しに行った事がある。
路地はそれらの浮世絵に見る如く今も昔と変りなく細民さいみんの棲息する処、日の当った表通からは見る事の出来ない種々さまざまなる生活がひそみかくれている。佗住居わびずまい果敢はかなさもある。隠棲の平和もある。
そのそばすすけた柱にった荒神様こうじんさまのおふだなぞ、一体に汚らしく乱雑に見える周囲の道具立どうぐだて相俟あいまって、草双紙くさぞうしに見るような何という果敢はかな佗住居わびずまいの情調、また哥沢うたざわの節廻しに唄い古されたような
妾宅 (新字新仮名) / 永井荷風(著)