何方いずかた)” の例文
そのほかに何方いずかたよりか千疋の借金を宗祇にしてもらったことが、三度ほど日記に見えており、千疋以下の借入れを頼んだこともある。
「俺はこちらに縁辺もなし、訪ねてやる知人しりびととてもない。ま、留守は俺がしているから、今夜が最後だ、何方いずかたへなりとも行ってこられい」
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
平和を破ったのは露国であるというが、露国から言えば日本なりと言う。これは水掛論で、果して何方いずかたが破ったかということは、よほど疑問である。
平和事業の将来 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
何方いずかたより金掘りまかり越し候とも当家へ申しことわり掘り申すべく、このむねをそむく者あるにおいてはクセ事なるべきものなりとあるんでございます。
大菩薩峠:10 市中騒動の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
何方いずかたにか行かんと行きつ戻りつしてつかれ死にせしを埋めたる跡なりとて、林道春はやしどうしゅんの文をりたる石碑立てりとある。
平「おゝよく尋ねて呉れた、別にさしたる事もないが、して手前は今まで何方いずかたへか奉公をした事があったか」
あまつさ何方いずかたにて召されしものか、御酒気あたりをくんじ払ひて、そのおそろしさ、身うちわなゝくばかりに侍り。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
事もなげに此方に近より、男のすぐ前を通りて何方いずかたへか行き過ぎたり。この人はその折のおそろしさよりわずらはじめて、久しくみてありしが、近きころせたり。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
狂言の小歌にも「ここ通る熊野道者の、手に持つたも梛の葉、笠にさいたも梛の葉、これは何方いずかたのおひじり様ぞ、笠の内がおくゆかし、大津坂本のお聖様、おゝ勧進聖ぢや」
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
何方いずかたに一戦が始まるとしても近ごろは穀留こくどめになる憂いがある。中には一か年食い継ぐほどのたくわえのある村もあろうが、上松あげまつから上の宿々では飢餓しなければならない。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
されど年比としごろ売尽し、かり尽しぬる後の事とて、この店を閉ぢぬるのち、何方いずかたより一銭の入金のあるまじきをおもへば、ここに思慮をめぐらさざるべからず。さらばとて運動の方法をさだむ。
樋口一葉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
一 我里の親のかたわたくしし夫の方の親類を次にすべからず。正月節句抔にも先づ夫の方を勤て次に我親の方を勤べし。夫の許さゞるには何方いずかたへも行くべからず。私に人におくりものすべからず。
女大学評論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
奥州筋近来の凶作にこの寺も大破に及び、住持となりても食物乏しければ僧も不住すまず明寺あきでらとなり、本尊だに何方いずかたへ取納めしにや寺には見えず、庭は草深く、誠に狐梟こきょうのすみかというもあまりあり。
一景話題 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
久政も此程遠藤が申すことを一度も用ひずして宜敷事よろしきこと無りしかば、此度ばかりは喜右衛門じょうが申す旨に同心ありて、然らば朝倉殿には織田と遠州勢と二手の内何方いずかたへ向はせ給ふべきかと申せしにより
姉川合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
市井の無頼らが命の価を得んとて戦場におもむくあるのみ、他は皆南方の風にも震えり、しかれども熊本城ははるかに雲のあなたにて、ここは山川四十里隔たる離落、何方いずかたの空もいと穏やかにぞ見えたる
空家 (新字新仮名) / 宮崎湖処子(著)
東武談叢とうぶだんそう』その他の聞書ききがきに見えているのは、慶長十四年の四月四日、駿府城内の御殿の庭に、弊衣へいいを着し乱髪にして青蛙あおがえるを食う男、何方いずかたよりともなく現れ来る。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
何方いずかたでも、通俗驢を愚鈍の標識のようにいえど、いわゆるその愚は及ぶべからずで、わざとたわけた風をして見せ、人を笑わすような滑稽智に富む由、ウッドは言った。
其の侍を取押えてかみに厄介を掛けても亭主のあだを討ちたいという精神から致して漸く尋ね当てた事である、とてのがれる道はない、さア何方いずかたおいて毒薬調合致したか、それを申せ
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
落葉、朽葉くちばうずたかく水くさき土のにほひしたるのみ、人の気勢けはいもせで、えりもとのひややかなるに、と胸をつきて見返りたる、またたくまと思ふひとはハヤ見えざりき。何方いずかたにか去りけむ、暗くなりたり。
竜潭譚 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
奉「当月九日の、柳島押上堤において長二郎のために殺害せつがいされた幸兵衛という者は、如何なる身分職業で、龜甲屋方に入夫にまいるまで、何方いずかたに住居いたして居った者じゃ」
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
(1)素盞嗚尊すさのおのみこと月読尊つきよみのみこととは同神か異神か、(2)高天の原は何方いずかたにありや、(3)持統天皇、春過ぎての歌の真意如何いかんなど、呆れ返ったことを問いに県属が来るに、よい加減な返事を一
神社合祀に関する意見 (新字新仮名) / 南方熊楠(著)
かかる人夫四五人もありてその後も絶えず何方いずかたへか出でて行くことありき。この者どもが後に言うを聞けば、女がきて何処どこへか連れだすなり。帰りてのちは二日も三日も物を覚えずといえり。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
明日一小児門外に棄てあり、何者と知れず、すこやかに見えしとて、憐れんでおのが子のごとく養ひ、成長後嗣子とせり、もとより子なかりしを知りて、何方いずかたよりか奪ひ来りしとみゆ、狼つれ来りし証は
山「只今は何方いずかたに」
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)