主婦あるじ)” の例文
父親が自分でつけた酒をちびちびやりながら、荒い声が少し静まりかけると、主婦あるじがまた母親を煽動けしかけるようにして、傍から口を添えた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
こんなことで幾日かを夢のように送っているうちに、主婦あるじのおきつが何処からか聞いて来て、江戸城の天狗の一件を話した。
今宵こよいは月がよくえている。主婦あるじのお徳は庭へ出てきぬたを打っていると、机竜之助は縁に腰をかけてその音を聞いています。
大菩薩峠:08 白根山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
主婦あるじのお利代は盥を門口に持出して、先刻さつきからパチャ/\と洗濯の音をさしてゐる。智惠子は白いきれを膝に披げて、餘念もなく針を動かしてゐた。
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
主婦あるじは酒癖の悪い爺さんが、やがて段々酔つて来て、言はないでも好いことを隣の老人に言ひけてゐるのを聞いた。
(新字旧仮名) / 田山花袋(著)
これを懐へ入れて置いたのが、立上る機勢はずみにドサリと落ちたから番頭はこゝぞと思って右の巾着を主婦あるじの前へ突付けたり、鳶頭かしらにも見せたりして居丈高いたけだかになり
闇夜の梅 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
『あゝあまりに哀れなる物語に、法體ほつたいにも恥ぢず、思はず落涙に及びたり。主婦あるじことばに從ひ、愚僧は之れより其の戀塚とやらに立寄りて、暫し𢌞向ゑかうの杖をとどめん』
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
私は知らず/\となり店の方へ首をのばし、しきりにそちらへ気をとられて居るのを見て、仕立家の主婦あるじ
黄金機会 (新字旧仮名) / 若松賤子(著)
ほとんど人心地ひとごこちあらざるまでに恐怖したりし主婦あるじは、このときようよう渠の害心あらざるを知るより、いくぶんか心落ちいつつ、はじめて賊の姿をば認め得たりしなり。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
烏森は新春野屋の長火鉢を中に、対座したる主婦あるじのお六と芸妓げいしやの花吉
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
箸とりてらぐ赤ら夕餉ゆふげ主婦あるじ、家の子
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
「そんなことしちゃよくないわの。向うも心配しているだろうに。」と、主婦あるじ煙管きせるを下におくと、台所の方へ立って行った。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
格子にならんだ台所で、三十三四の女が今夜のたなばたに供えるらしい素麺そうめんを冷やしていた。半七は近よって声をかけると、かれは主婦あるじのお豊であった。
半七捕物帳:35 半七先生 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
隣室からは、床に就いて三月にもなる老女としよりの、幽かな呻声が聞える。主婦あるじのお利代は、たらひを門口に持出して、先刻さきほどからバチヤ/\と洗濯の音をさしてゐる。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
き余るびんうずたかい中に、端然として真向まむきの、またたきもしない鋭い顔は、まさしく薬屋の主婦あるじである。
処方秘箋 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
隣の老人が舳先へさきの方に行つた跡で、主婦あるじ老爺らうやに小声で言つた。
(新字旧仮名) / 田山花袋(著)
また思ふ、柑子かうじたな愛想あいそよき肥満こえたる主婦あるじ
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
主婦あるじはランプの蔭で、ほどきものをしながら齲歯むしばを気にしている母親を小突いた。お庄は火鉢の傍で、よいの口から主婦の肩をたたいていた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
夫が旅行で多日しばらく留守、この時こそと思っても、あとを預っている主婦あるじならなおの事、実家さとの手前も、旅をかけては出憎いから、そこで、盲目めくらの娘をかこつけに、籠を抜けた。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その隣りは主婦あるじの居間であった。
わか主婦あるじ懐中ふところへ入るようで、心咎こころとがめがしてならないので、しばらく考えていましたがね。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「何ですッて、」と蝶吉は目を据えて立ったまま、主婦あるじかたに向直って
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)