両端りょうはし)” の例文
旧字:兩端
陳は小銭こぜにを探りながら、女の指へあごを向けた。そこにはすでに二年前から、延べのきん両端りょうはしかせた、約婚の指環がはまっている。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
重い大きな荷物をこの朸のなかほどにゆわえつけ、二人で両端りょうはしを肩にのせて行くのを中担ちゅうにない、または差担さしにないともいっていた。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
堂の前を左に切れると、空へ抜いた隧道トンネルのように、両端りょうはしから突出つきでましたいわの間、樹立こだちくぐって、裏山へかかるであります。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
彼は薄い鯨髭くじらひげの長いのを一本拾いあげて皆に見せました。両端りょうはしは針のように鋭くとがらせてあります。それを彼はていねいにぐるぐる巻いてゆきました。
負けない少年 (新字新仮名) / 吉田甲子太郎(著)
そのとき、一ツ杖の両端りょうはしを持ち合っていた母の手が、しッ……と言葉代りに動いて、覚一の口をつぐませた。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
鶏卵の黄味がからざで両端りょうはしから吊られると同じく、うまい工合に釣合を保って宙に浮いておる
平賀源内捕物帳:萩寺の女 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
打ち崩されるたびにまた同じ順序がすぐ繰返された。自分はついに彼女のくちびるの色まで鮮かに見た。その唇の両端りょうはしにあたる筋肉が声に出ない言葉の符号シンボルのごとくかすかに顫動せんどうするのを見た。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そこで、くちびる両端りょうはしを指でギュッと上に押し上げたまま、二十分程も、じっと辛抱していると、すで強直きょうちょくの起り始めた筋肉は、そのまま形を変えて、如何にも嬉しげな笑いの表情となった。
恐怖王 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
土間を正面に見た旦那座だんなざに座っているのが鬼の大将たいしょうであろう。こしのまわりにけものの皮をいて大あぐらをかいている。口の両端りょうはしからあらわれているきばが炎にらされて金の牙のように光っている。
鬼退治 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
むら石油せきゆりにくるおとこがありました。かみくろ蓬々ぼうぼうとした、せいのあまりたかくない、いろしろおとこで、石油せきゆのかんを、てんびんぼう両端りょうはしに一つずつけて、それをかついでやってくるのでした。
火を点ず (新字新仮名) / 小川未明(著)
夜はかこいの中へ入れて、両端りょうはしの小屋へ番人が一人ずつています。
棒の両端りょうはしをずっと細くしたものだが、これにも二通りあってただ先をとがらしたものと、ツクと称する小さな突起を二つ、木または金属でつくってめこんだものとがある。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
鞍馬くらまそだちの竹童も、こよいは一だいのはなれわざだ。果心居士かしんこじうつしの浮体ふたいの法で、ピタリと、クロのつばさの根へへばりつき、両端りょうはしへ火をつけた松明たいまつをバラバラおとす。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
真中頃まんなかごろで、向岸から駆けて来た郵便脚夫きゃくふ行合ゆきあって、遣違やりちがいに一緒になったが、分れて橋の両端りょうはしへ、脚夫はつかつかと間近に来て、与吉はの、倒れながらに半ば黄ばんだ銀杏いちょうの影に小さくなった。
三尺角 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一人でも力のある男はそれを一方のはしに引掛ひっかけ、または分けられる物ならば半分ずつ両端りょうはしにつけて、まんなかをかたげて運ぼうとするようになったのは自然のことである。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)