髪剃かみそり)” の例文
旧字:髮剃
彼は髪剃かみそりふるうに当って、ごうも文明の法則を解しておらん。頬にあたる時はがりりと音がした。あげの所ではぞきりと動脈が鳴った。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
はるたといつては莞爾につこりなにたといつては莞爾につこり元来ぐわんらいがあまりしつかりしたあたまでないのだ。十歳じつさいとき髪剃かみそりいたゞいたが、羅甸ラテン御経おきやうはきれいに失念しつねんしてしまつた。
そして、それからというものは、もう理髪人をかかえないで、自分の娘たちに顔を剃らせました。しかし後には、自分の子が髪剃かみそりを持ってあたるのさえも不安心でならなくなりました。
デイモンとピシアス (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
髪剃かみそりや一夜にさび五月雨さつきあめ 凡兆
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
「何だか長い名だ、とにかく食道楽じゃねえ。かまさん一体これゃ何の本だい」と余の耳に髪剃かみそりを入れてぐるぐる廻転させている職人に聞く。
琴のそら音 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「源さん、世の中にゃ随分馬鹿な奴がいるもんだねえ」と余のあごをつまんで髪剃かみそりぎゃくに持ちながらちょっと火鉢の方を見る。
琴のそら音 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
幅の厚い西洋髪剃かみそりで、顎と頬を剃る段になって、その鋭どい刃が、鏡の裏でひらめく色が、一種むずがゆい様な気持を起さした。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
文明は人の神経を髪剃かみそりけずって、人の精神を擂木すりこぎと鈍くする。刺激に麻痺まひして、しかも刺激にかわくものはすうを尽くして新らしき博覧会に集まる。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
幅のあつい西洋髪剃かみそりで、あごと頬をだんになつて、其するどいが、かゞみうらひらめく色が、一種むづがゆい様な気持をおこさした。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
それから机の上へ旅行用の鏡を立てて、象牙ぞうげのついた髪剃かみそりを並べて、熱湯でらした頬をわざと滑稽こっけいふくらませた。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「いいえそれがわたくしなんぞの知らない妙な御祈祷なのよ。何でも髪剃かみそりを頭の上へ載せて遣るんですって」
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そりは安全髪剃かみそりだからまつがいい。大工がかんなをかけるようにスースーとひげをそる。いい心持だ。
倫敦消息 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
自分は三沢へ端書はがきを書いたあとで、風呂から出立でたての頬に髪剃かみそりをあてようと思っていた。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼女の手には彼が西洋から持って帰った髪剃かみそりがあった。彼女が黒檀エボニーさやに折り込まれたその刃を真直まっすぐに立てずに、ただ黒いだけを握っていたので、寒い光は彼の視覚を襲わずに済んだ。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
座敷の張易はりかえが済んだときにはもう三時過になった。そうこうしているうちには、宗助も帰って来るし、晩の支度したくも始めなくってはならないので、二人はこれを一段落として、糊や髪剃かみそりを片づけた。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ところが幾日いくかとなく洗いもくしけずりもしない髪が、あぶらあかで余の頭をうずくそうとする汚苦むさくるしさにえられなくなって、ある日床屋を呼んで、不充分ながら寝たまま頭に手を入れて顔に髪剃かみそりを当てた。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
好加減いいかげん髪剃かみそりで小口を切り落してしまう事もあった。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その頃髪剃かみそりと云うものは無論なかった。
夢十夜 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)