高櫓たかやぐら)” の例文
可笑おかしかったのは、花時はなどき向島むこうじま高櫓たかやぐらを組んで、墨田の花を一目に見せようという計画でしたが、これは余り人が這入はいりませんでした。
江戸か東京か (新字新仮名) / 淡島寒月(著)
ちゃくわと二方をしきった畑の一部を無遠慮に踏み固めて、棕櫚縄しゅろなわ素縄すなわ丸太まるたをからげ組み立てた十数間の高櫓たかやぐらに人は居なかった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
陳宮のいった通り、城頭にはもう敵の旌旗せいき翩翻へんぽんとみえる。——そして呂布来れりと聞くとそこの高櫓たかやぐらへ登った陳登が、声高に笑っていった。
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
川蒸汽の、ばらばらと川浪をるのなんぞは、高櫓たかやぐらかわら一枚浮かしたほどにも思われず、……船に掛けた白帆くらいは、城の壁の映るのから見れば、些細ささいな塵です。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
はるうら/\てふともあそぶやはな芳野山よしのやまたまさかづきばし、あきつきてら/\とたゞよへるうしほ絵島ゑのしままつさるなきをうらみ、厳冬げんとうには炬燵こたつおごり高櫓たかやぐら閉籠とぢこもり、盛夏せいかには蚊帳かや栄耀えいえう陣小屋ぢんごやとして
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
高櫓たかやぐら神燈みあかしの下で竜之助は、犬を呼んで物を言う。
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そのうちに、城壁の高櫓たかやぐらから、二男の祝虎が狙い放した一すじの矢が、李応の姿を、どうと、馬の背から射落した。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
品川堀が西へ曲るとこに来た。丸太を組んだ高櫓たかやぐらが畑中に突立って居る。上には紅白の幕を張って、回向院の太鼓櫓たいこやぐらを見るようだ。北表面きたおもてまわると、墨黒々と筆太ふでぶと
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
……此を高櫓たかやぐらからあり葛籠つづら背負しょつたやうに、小さく真下まっしたのぞいた、係りの役人の吃驚びっくりさよ。おもてむしばんだやうに目がくらんで、折からであつた、つの太鼓を、ドーン、ドーン。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
独りひそかに、砦の高櫓たかやぐらへのぼって行った陳登ちんとうは、はるか曹操の陣地とおぼしき闇の火へ向って、一通の矢文やぶみを射込み、何喰わぬ顔をしてまた降りてきた。
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そしてそこの高櫓たかやぐらの上には、ひとりの武将が突っ立って、厳に城下を見下していた。
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
三日の間、わしは高櫓たかやぐらから合戦を見ていたのだぞ。然るに、きょうの戦は何事だ。射れば関羽を射止め得たのに、汝は、弓のつるばかり鳴らして、射たと見せかけ、故意に助けたのではないか。
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「……やあ、こんどはあの築山の上に、幾つも高櫓たかやぐらを組み立てているぞ」
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)