あき)” の例文
女がすでに離れた以上、自分の仕事にあきが来たと云ってはすまないが、ぜん同様であるべき窮屈の程度が急に著るしく感ぜられてならなかった。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
貴方あなたの心は近頃大変に若やいで来た。それわかつて居る。年寄つた自分にあきが来て、あのアルマンに移つてくのでせう。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
あたしね、怒りっぽくなったりあきっぽくなったりするって言ったでしょ。その時も、欠伸あくびしながら写真帳を枕にして、だらしなく寝ころんでいたの。
田沢稲船 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
かくて半晌はんときも過ぎると、いずれも漸くあきが来て、思わず頭をれると、あたかもその途端に石がバラリと落ちるという工合で、どうしても上に物あって下の挙動を窺っているとよりは見えぬ。
池袋の怪 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
たゞ折々をり/\きこゆるものは豌豆ゑんどうさやあつい日にはじけてまめおとか、草間くさまいづみ私語さゝやくやうな音、それでなくばあきとり繁茂しげみなか物疎ものうさうに羽搏はゞたきをする羽音はおとばかり。熟過つえすぎ無花果いちじくがぼたりと落ちる。
怠惰屋の弟子入り (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
其上そのうへ、もうがたるみ、すぢゆるんで、歩行あるくのにあきよろこばねばならぬ人家じんかちかづいたのも、たかがよくされてくちくさばあさんに渋茶しぶちや振舞ふるまはれるのがせきやまと、さとるのもいやになつたから
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
もっとも多い中には万年筆道楽という様な人があって、一本を使い切らないうちにあきが来て、又新しいのを手に入れたくなり、これを手に入れて少時しばらくすると
余と万年筆 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
あなたは定めてあきっぽいと思うでしょう、しかしこれはあなたと僕の性質の差違から出るのだから仕方がないのです。またかと云わずに、まあ僕の訴えを聞いて下さい。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)