面皰にきび)” の例文
その証拠が、面皰にきび云々の夢で、それが充たされない性慾に対する願望だと云うのは、面皰を潰した痕が女性性器の象徴シンボルだからだよ。
後光殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
其処そこへ幸ひ戸口に下げた金線きんせんサイダアのポスタアの蔭から、小僧が一人首を出した。これは表情の朦朧もうろうとした、面皰にきびだらけの小僧である。
あばばばば (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
汗で油ぎってる黒い顔に、いつも面皰にきびを吹き出してる中学生の群を見る時、僕は自分の過去を回想して、言いようもなく陰惨の思いがする。
老年と人生 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
ちやうど顔ぢゆうに面皰にきびが生じ、自習室の机に向いても指で潰してばかりゐて、気を奪はれ全然勉強が手につかなくなつた。
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
気どったようすで扉があいて、ニッカーを穿いた面皰にきびだらけの青二才がはいってきた。点火器ライターをだして金口に火をつけると
金狼 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
が、やがて、その彼の、いや私達のかなしい恋情は、月日が経って、私達の顔に次第に面皰にきびえてくるに従って、何処かへ消えて行って了った。
虎狩 (新字新仮名) / 中島敦(著)
「お父つあん、それ面皰にきび。……」と、自分は父のふくれた口元にポツリと白くうみを持つた、小さな腫物を指さしつゝ言つた。
父の婚礼 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
しばらく私のすがたを見つめているうちに、私には面皰にきびもあり、足もあり、幽霊でないということが判って、父は憤怒の鬼と化し、母は泣き伏す。
玩具 (新字新仮名) / 太宰治(著)
面皰にきびだらけの太つた顔に、小さい水色の目が附いてゐる。睫も眉も黄色である。頭の髪は短く刈つてある。色の蒼い顔がちつともえらさうにない。
ところが此のお嬢様が先達せんだって宿賃をお払いなさる時に、懐から出した胴巻には、金が七八十両あろうと見た時は、面皰にきびの出る程欲しくなりました
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
三十五六の、面皰にきびだらけな細顏で、髭が無く、銀縁の近眼鏡をかけて居たが、眼鏡越に時々猜疑深い樣な目付をする。
菊池君 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
ニヤリともせず真面目くさり、ひげのない男の手持なげに、見事な面皰にきびを爪探りながら、勝手の方に引込ひっこんでしまった。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
顔に一つ二つ面皰にきびが出来、独り勝手な空想に耽る頃になると、兄弟も姉妹もないことが、甘い淋しさで考えられた。
同胞 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
「こんな物が出来てえ」と甘えるような鼻声になって、しきりに顔の小さい面皰にきびのようなものを気にしている。
黒髪 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
吾々の菊石面あばたづら面皰にきびも地下に眠らせるほどみにくいものでないやうな気がしました。
その満面に面皰にきびの吹き出ている顔にたっぷり塗り込んだというわけなのであった。
生い立ちの記 (新字新仮名) / 小山清(著)
ひどい癖毛を銀杏返いてふがへしに結つた、面皰にきびの痕の滿面にはびこる、くりくり肥つた、二十六七には確かになる女だつた。何處にひとつ取柄の無い女だが、その面皰面にきびづらが始終にこにこ笑つてゐる。
大阪の宿 (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
かにかくに太平洋に星多き夜はともすれば人の恋しき——から始まり——海ののノオトはなみが消しゆきぬこのかなしみは誰が消すらむ——に終る、面皰にきびだらけの歌を十首ばかり作りあげ
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
面皰にきびだらけで、下唇よりもずっと下へ垂れ下り、そいつを時々舌で右へあるいは左へといとも優美なぐあいにお動かしになるのだが、それが彼女の容貌に多少曖昧あいまいな表情を与えているのである。
そんな加減か、めっきり成人し、顔にはぼつぼつ面皰にきびまで誇示している。時々、秀吉にも手におえないことがある。自分と秀吉とは親戚のあいだだという気持がそのうらにあることはいうまでもない。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
紫色にただれたような面皰にきびが汚らしかった。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
三十五六の、面皰にきびだらけな細顔で、髯が無く、銀縁の近眼鏡をかけて居たが、眼鏡越に時々狐疑うたがひ深い様な目付をする。
菊池君 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
それに、その青黒いがさがさした顔には到る処に面皰にきびが吹出していた。時々、腹を立てた彼は、まだ若い面皰を無理につぶして血膿を出させたりした。
プウルの傍で (新字新仮名) / 中島敦(著)
何んでも、自分の身体の中から侏儒の様な自分が脱け出して行って、慈昶君の面皰にきびを一々丹念に潰して行くのです。
後光殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
下人は七段ある石段の一番上の段に、洗いざらした紺のあおの尻を据えて、右の頬に出来た、大きな面皰にきびを気にしながら、ぼんやり、雨のふるのを眺めていた。
羅生門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
面皰にきびの出るほど欲くって堪らないから、うか/\と思わず知らず追貝村おっかいむらまでの百姓の跡をけて来ました。
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
学士は自分の顔を、ずつと面皰にきびだらけのきたない相手の顔の側へ持つて行つて、殆ど歯がみをするやうな口吻こうふんで、「一体君はなんの為めにこんな馬鹿な事を言つてゐるのです」
勝太郎にくらべて何から何まで見劣りして色は白いが眼尻めじりは垂れ下り、くちびる厚く真赤で猪八戒ちょはっかいに似ているくせになかなかのおしゃれで、額の面皰にきびを気にして毎朝ひそかに軽石でこすり
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
多分の血液を湛えている皮膚には、面皰にきびや薄痣や雀斑などが浮上っている。
(新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
常吉は面皰にきびの多い顏を眞赤にして差し俯伏いた。
太政官 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
まるで面皰にきびつらの文学青年のよみそうな句だ。
メフィスト (新字新仮名) / 小山清(著)
下人げにんは七段ある石段の一番上のだんあらひざらしたこんあをの尻を据ゑて、右の頬に出來た、大きな面皰にきびを氣にしながら、ぼんやり、あめのふるのをながめてゐるのである。
羅生門 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
口をつぐんだまま正面から私を見返した彼の顔付は——その面皰にきびのあとだらけな、例によって眼のほそい、鼻翼びよくの張った、脣の厚い彼の顔は、私の、繊細な美を解しないことに対する憫笑びんしょうや、又
虎狩 (新字新仮名) / 中島敦(著)
昔「羅生門らしやうもん」と云ふ小説を書いた時、主人公の下人げにんほほには、大きい面皰にきびのある由を書いた。
澄江堂雑記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
顔中到る所に吹出した面皰にきびをつぶしながら、分ったような顔をして、ヴェルレエヌの邦訳などを読んでいたんですから、全く今から考えてもさぞ鼻持のならない、「いやみ」な少年だったでしょうが
十年 (新字新仮名) / 中島敦(著)
その兵は石に腰をかけながら、うっすり流れ出した朝日の光に、片頬の面皰にきびをつぶしていた。
将軍 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
老婆の話がおわると、下人はあざけるような声で念を押した。そうして、一足前へ出ると、不意に右の手を面皰にきびから離して、老婆の襟上えりがみをつかみながら、噛みつくようにこう云った。
羅生門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
保吉は面皰にきびの多い小僧に Van Houten はないかと尋ねた。
あばばばば (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
楼の上からさす火の光が、かすかに、その男の右の頬をぬらしている。短い鬚の中に、赤くうみを持った面皰にきびのある頬である。下人は、始めから、この上にいる者は、死人ばかりだと高をくくっていた。
羅生門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
樓の上からさすひかりが、かすかに、その男の右のほゝをぬらしてゐる。短いひげの中に、赤く膿を持つた面皰にきびのある頬である。下人は、始めから、この上にゐる者は、死人しにんばかりだと高を括つてゐた。
羅生門 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)