閑静かんせい)” の例文
旧字:閑靜
「これじゃあまり閑静かんせい過ぎやしませんか、年に合わして」と自分は母に聞いて見た。母は「でもねあんまり高くなるから」と答えた。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
Uの温泉場では××屋という宿が閑静かんせいで、客あつかいも親切であるということを聞かされて、私も不図ふとここへ来る気になったのである。
鰻に呪われた男 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
この国研は(国立科学研究所を国研と略称することも、の日知ったのである)東京の北郊ほくこう飛鳥山あすかやまの地続きにある閑静かんせいな研究所で
階段 (新字新仮名) / 海野十三(著)
与えるがこれらの墓が建てられた当時はもっと鬱蒼うっそうとしていたであろうし今も市内の墓地としてはまずこの辺が一番閑静かんせいで見晴らしのよい場所であろう。
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
こちら側には閑静かんせいな住宅のコンクリート塀や生垣いけがきがつづいていた。そのなかの低いコンクリート塀にかこまれた二階建ての木造洋館が、彼の目ざす股野の家であった。
月と手袋 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
場所は東京の郊外で、東上線の下赤塚しもあかつか駅から徒歩十分内外の、赤松あかまつくぬぎの森にかこまれた閑静かんせいなところである。敷地しきちは約五千つぼ、そのうち半分は、すぐにでも菜園につかえる。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
あたたか閑静かんせい書斎しょさいと、この病室びょうしつとのあいだに、なんいのです。』と、アンドレイ、エヒミチはうた。『人間にんげん安心あんしんと、満足まんぞくとは身外しんがいるのではなく、自身じしんうちるのです。』
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
木の芽を誘うには早すぎるが、空気は、湿気を含んで、どことなく暖い。二三ヶ所で問うて、ようやく、見つけた家は、人通りの少ない横町にあった。が、想像したほど、閑静かんせい住居すまいでもないらしい。
野呂松人形 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
漢学の先生が出て来る。野だが出て来る。しまいには赤シャツまで出て来たが山嵐の机の上は白墨はくぼくが一本たてに寝ているだけで閑静かんせいなものだ。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ひょっこり釣堀のこわれかかった小屋が立っていたりする、妙に混雑と閑静かんせいとを混ぜ合わせた様な区域であったが、そのとある一廓いっかくに、このお話は大地震よりは余程以前のことだから
(新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
つのらせていたところ父親九兵衛が老後の用意に天下茶屋てんがぢゃや閑静かんせいな場所を選び葛家葺くずやぶき隠居所いんきょじょを建て十数株のうめの古木を庭園に取り込んであったがある年の如月きさらぎにここで梅見のうたげもよお
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
そうしてそれからうちあたたか閑静かんせい書斎しょさいかえって……名医めいいかかって頭痛ずつう療治りょうじでもしてらったら、ひさしいあいだわたくしはもうこの人間にんげんらしい生活せいかつをしないが、それにしてもここはじつにいやなところだ。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
とぐるぐる、閑静かんせいで住みよさそうな所をあるいているうち、とうとう鍛冶屋町かじやちょうへ出てしまった。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
明智小五郎の住宅は、港区みなとく竜土町りゅうどちょう閑静かんせいなやしき町にありました。名探偵は、まだ若くて美しい文代ふみよ夫人と、助手の小林少年と、お手伝いさんひとりの、質素な暮らしをしているのでした。
怪人二十面相 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
津田の知らないに、この閑静かんせいな古い都が、彼の父にとって隠栖いんせいの場所と定められると共に、終焉しゅうえんの土地とも変化したのである。その時叔父は鼻の頭へしわを寄せるようにして津田に云った。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
すると山嵐はともかくもいっしょに来てみろと云うから、行った。町はずれの岡の中腹にある家で至極閑静かんせいだ。主人は骨董こっとうを売買するいか銀と云う男で、女房にょうぼう亭主ていしゅよりも四つばかり年嵩としかさの女だ。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)