鍾馗しょうき)” の例文
魔よけのつるぎをふるっている鍾馗しょうきまでが、どうも山の人ではなくて、唐国からくにあたりから船で海を渡ってきた目の大きな人のように見えます。
力餅 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
顔も体格に相応して大きな角張った顔で、鬚が頬骨の外へ出てる程長く跳ねて、頬鬚の無い鍾馗しょうきそのまゝの厳めしい顔をしていた。
子をつれて (新字新仮名) / 葛西善蔵(著)
藤田工業、井上製鞣せいじゅう鍾馗しょうきタビ、向上印刷などへ出ているここの父さん母さん連は、そういうことから市電の連中と結ばれた。
乳房 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
それは青い絹の上着を着て、同じ絹のダブダブのズボンをはいた、顔中ひげだらけの大男でした。まるで五月のぼり鍾馗しょうきさまみたいな恐しい奴です。
新宝島 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
正にこれ「蒲緑榴紅雨霽時。」〔蒲ハ緑榴ハ紅雨ルル時〕にして、江戸の町々には鍾馗しょうきを画いたのぼりがひらめいていた。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
子規居士が「定紋じょうもんを染め鍾馗しょうきを画きたる幟は吾等のかすかなる記憶に残りて、今は最も俗なる鯉幟のみ風の空に飜りぬ」
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
囃子は笛二人、太鼓二人、踊る者は四人で、いずれも鍾馗しょうきのような、烏天狗からすてんぐのような、一種不可思議のおもてを着けていた。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
達磨だるまさん、鍾馗しょうき大臣、サンタクローズ、桃太郎、金太郎、花咲爺、乙姫様や浦島太郎、熊、鹿、猪や兎なぞいうけものや鳥やお魚や山水天狗、つるまむし
雪の塔 (新字新仮名) / 夢野久作海若藍平(著)
あなた、行って見てもいゝですが、ばあさんの部屋はきれいに片付けられていま魔除けの鍾馗しょうきさまの人形が一つ赤鬼をひっ掴んで八方を睨んでるだけでさ
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
多町の鍾馗しょうきは山車中の王、一丈余の大人形で、錦の幕を垂れ、中央の大太鼓を唐子からこ風の男二人が左右から打つ。
明治世相百話 (新字新仮名) / 山本笑月(著)
と云いながら見ると、肩巾の広い、筋骨のたくましい、色が真黒まっくろで、毛むくじゃらでございます。実に鍾馗しょうきさまか北海道のアイノじんが出たような様子で有ります。
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
この故に県官常に臘を以て祭る、また桃人とうじんを飾り葦索を垂れ虎を内に画き以て凶をふせぐなり〉、わが朝鍾馗しょうきを五月に祭るが、支那では臘月に祭ったと見えて
僕は鍾馗しょうきにつかまった小鬼のように吃驚びっくりした。七郎丸はそのままオイオイと声を挙げて泣くのであった。
吊籠と月光と (新字新仮名) / 牧野信一(著)
筆をして描き上げたのは燃え立つばかりの鍾馗しょうきである。前人未発の赤鍾馗。べに一色の鍾馗であった。
北斎と幽霊 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
二日間の作、一つは主人の注文によっての「鍾馗しょうき」と、自分の作意によっての「勿来関」であります。
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そののちは端午の節句になっても、私のためにはただ一枚の鍾馗しょうきの絵が飾られたきりであった。
幼年時代 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
その日、用いて来た鍾馗しょうきの馬じるし、きん采配さいはい、刀などに、感状をそえて、助右衛門に与えた。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
政朝に鍾馗しょうきを設けて、寃枉えんおうの訴えをきくという故事は、王代の昔だ。このデモクラテックな制度が復活して、目安箱という、将軍吉宗の命に出るものだが、忠相の建策だ。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
それに今一人の相伴があって、この人は温姓おんせいで、令狐や斐に鍾馗しょうき々々と呼ばれている。
魚玄機 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
一枚、鍾馗しょうきを描いてやったら、大変喜んでいたがの。——ちょっと、すずりを貸してくれ。
再度生老人 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
優曇法印うどんほういんというのが人寄せに建てた一宇の堂で本尊は閻魔えんまとも鍾馗しょうきとも付かぬ大変な代物しろもの、——神仏混淆こんこう時代で、そんなチャチな流行神は、江戸中に幾つあったか知れないのです。
鍾馗しょうきにしろ金時きんときにしろ、皆勇ましく荒々しいものだが、鍾馗は玄宗皇帝の笛を盗んだ鬼をとらえた人というし、金時は今も金時山に手玉石という大きな石が残っている位強かったというが
梵雲庵漫録 (新字新仮名) / 淡島寒月(著)
されど小児の時余のもっともおそれたるは父と家に蔵する鍾馗しょうきの画像なりしとぞ。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
菖蒲の節句は男の節句、矢車のカラカラと高笑いする空に真鯉、緋鯉、吹流しの翻るも勇ましく、神功皇后、武内大臣の立幟、中にも鍾馗しょうきの剣を提げて天の一方を望めるは如何にも男らしい。
残されたる江戸 (新字新仮名) / 柴田流星(著)
鍾馗しょうきは宜いわ。些っと似ていますわ。矢っ張り高いわ」
好人物 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
鍾馗しょうきのような顔は全くこれは東洋鬼子だった。
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
何が何やらエタイのわからない和洋服混交の貞操オン・パレードがギッチリ鮓詰すしづめになっているその中央に、モダン鍾馗しょうき大臣の失業したみたいな吾輩が納まり返っているんだから
超人鬚野博士 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「オオっ。今浜いまはまの砂丘に、鍾馗しょうきのお馬印うまじるしが見えるわ! まさしく、金沢表のお味方が参られたぞっ。おおうい! みんなあ! よろこべ、よろこべ。われらの援軍は、今浜まで来ているぞ」
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
古エトルリアの地獄神チャルンは巨槌で亡魂どもを打ち苦しむ(デンニス著『エトルリアの都市および墓場』二巻二〇六頁)、『陔余叢考』三五に鍾馗しょうき終葵しゅうきなまりで、斉人つちを終葵と呼ぶ。
鍾馗しょうきタビへ出ている秀子のおふくろの言葉などを実例にひいて話した。
乳房 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
筆者は九歳の時に「鍾馗しょうき」の一番を上げると直ぐにワキに出された。
梅津只円翁伝 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
そのころパリに滞在していた日本のある漫画家も、支那靴をはいた足で鬼を踏まえている鍾馗しょうきの大幅絹本を出品したりもしている。その墨絵は伸子に五月節句の贈りもののようにしか見えなかった。
道標 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)