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すいきょう
ふりがな文庫
“
酔興
(
すいきょう
)” の例文
旧字:
醉興
酔興
(
すいきょう
)
に述作をするからだと云うなら云わせて置くが、近来の漱石は何か書かないと生きている気がしないのである。
夫丈
(
それだ
)
けではない。
入社の辞
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
揉むには当らぬ。お前の事は
初手
(
しょて
)
からいわば私が
酔興
(
すいきょう
)
でこうして
隠
(
かくま
)
って上げているの故、余計な
気兼
(
きがね
)
をせずと安心していなさるがいい。
散柳窓夕栄
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
俺が
酔興
(
すいきょう
)
であんな軽業をさせるんじゃねえと思う
節
(
ふし
)
もあるだろう……おやおや、役人が大勢来やがったな、あ、百の野郎を引き上げたな。
大菩薩峠:11 駒井能登守の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
と巡査は帰りがけに加奈子に、それは
如何
(
いか
)
にも
酔興
(
すいきょう
)
だと言うような、また如何にも感服したというようにもとれる口の
利
(
き
)
き方をして行った。
春:――二つの連作――
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
私はしばらく前、
酔興
(
すいきょう
)
に手相を見てもらったことがあるが、そのときその大道易者は仔細らしい顔をして、四十までは商売換えをしない方がいいと云った。
朴歯の下駄
(新字新仮名)
/
小山清
(著)
▼ もっと見る
今はこういう山道を越える者などは
殆
(
ほとん
)
ど絶えて、僕らのこの旅行などもむしろ
酔興
(
すいきょう
)
におもえるのに、遍路は実際ただひとりしてこういう道を歩くのであった。
遍路
(新字新仮名)
/
斎藤茂吉
(著)
讃岐
(
さぬき
)
へ流されてい、これで院(上皇)を犬と呼んだり矢を射るなどの大不敬を
酔興
(
すいきょう
)
の
余
(
よ
)
にやった武士どもの
御車
(
みくるま
)
暴行事件はひとまずかたがついたようなものだった。
私本太平記:13 黒白帖
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
「
酔興
(
すいきょう
)
なお品がこれに。
松飾
(
まつ
)
がとれますと、扇箱のお払いものはございませんか、って、裏ぐちから顔を出しますな。あれは、買いあつめて、箱屋へ返して、
来新春
(
らいはる
)
また——。」
元禄十三年
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
こんなに長い電灯を何のために作るだろうかと尋ねてみると、これは物好きでも
酔興
(
すいきょう
)
でもない。つまり、なるべく大きな光源を作って、物の陰影をなくし、昼を欺くようにしたいからである。
ムーア灯
(新字新仮名)
/
寺田寅彦
(著)
いくら浜村屋が
酔興
(
すいきょう
)
でも、九つ
十歳
(
とお
)
の娘などに
色文
(
いろぶみ
)
をつけるわけはない
平賀源内捕物帳:萩寺の女
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
おまえ、間違ってはいませんか。冗談じゃないかしら。陣州屋はだしぬけに言葉をはさんだ。これは鹿間屋の若旦那、へっへ、冗談です、まったくの
酔興
(
すいきょう
)
です、ささ、ぞんぶんに水をおいれ下さい。
ロマネスク
(新字新仮名)
/
太宰治
(著)
余は白い
寝床
(
ベッド
)
の上に寝ては、自分と病院と
来
(
きた
)
るべき春とをかくのごとくいっしょに結びつける運命の
酔興
(
すいきょう
)
さ加減を
懇
(
ねんご
)
ろに
商量
(
しょうりょう
)
した。
思い出す事など
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
「俺らは別に尋ねる人があって来たんだ、
酔興
(
すいきょう
)
で歩いて来たんじゃねえや」
大菩薩峠:17 黒業白業の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
踊るように、ちょっと写ってすぐ消えましたが、あっしゃあ誰かと思って近づいてみますと、だれも人はいねえで、この
屍骸
(
しげえ
)
——武右衛門さんが倒れていたのでございます。
酔興
(
すいきょう
)
にも程がある。
釘抜藤吉捕物覚書:11 影人形
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
「ええ。進んで忙しい中へ飛び込んで、人から見ると
酔興
(
すいきょう
)
な苦労をします。ハハハハ」と笑う。これなら苦労が苦労にたたない。
野分
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
彼は例刻の五時がとうの
昔
(
むか
)
しに過ぎたのに、妙な
酔興
(
すいきょう
)
を起して、やはり同じ所にぶらついていた自分を仕合せだと思った。
彼岸過迄
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
「あなたのおっしゃった事は、よく分っています。しかし僕だって、
酔興
(
すいきょう
)
にここまで来た訳じゃないんですから、帰るったって帰る所はありません」
坑夫
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
復活の見込が充分立たないのに、
酔興
(
すいきょう
)
で自分の虚栄心を打ち殺すような正直は、彼女の最も
軽蔑
(
けいべつ
)
するところであった。
明暗
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
淵明、王維の詩境を直接に自然から吸収して、すこしの
間
(
ま
)
でも
非人情
(
ひにんじょう
)
の天地に
逍遥
(
しょうよう
)
したいからの
願
(
ねがい
)
。一つの
酔興
(
すいきょう
)
だ。
草枕
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
「だって、楽で御金の取れる口は断っておしまいなすって、忙がしくって、一文にもならない事ばかりなさるんですもの、誰だって
酔興
(
すいきょう
)
と思いますわ」
野分
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
藤尾さん、僕は時計が欲しいために、こんな
酔興
(
すいきょう
)
な邪魔をしたんじゃない。小野さん、僕は人の思をかけた女が欲しいから、こんな
悪戯
(
いたずら
)
をしたんじゃない。
虞美人草
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
普通の人から見れば、まるで
酔興
(
すいきょう
)
です。その上窮屈な境遇にいる彼の意志は、ちっとも強くなっていないのです。彼はむしろ神経衰弱に
罹
(
かか
)
っているくらいなのです。
こころ
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
ここまで来る以上は、都へ帰るのは大変だと思うと、何の
酔興
(
すいきょう
)
で来たんだか
浅間
(
あさま
)
しくなる。
坑夫
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
もとより
酔興
(
すいきょう
)
でした事じゃない、やむを得ない事情から、やむを得ない罪を犯したんだが、社会は冷刻なものだ。内部の罪はいくらでも許すが、表面の罪はけっして
見逃
(
みのが
)
さない。
坑夫
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
「だって、わざとあんな
真似
(
まね
)
をする訳がないじゃありませんか、なんぼ僕が
酔興
(
すいきょう
)
だって」
明暗
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
始めはあなたに会って話をする気でいたのですが、書いてみると、かえってその方が自分を
判然
(
はっきり
)
描
(
えが
)
き出す事ができたような心持がして
嬉
(
うれ
)
しいのです。私は
酔興
(
すいきょう
)
に書くのではありません。
こころ
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
道を守り俗に抗する道也はなおさらない。夫が行く先き先きで評判が悪くなるのは、夫の才が足らぬからで、
到
(
いた
)
る所に職を辞するのは、自から求むる
酔興
(
すいきょう
)
にほかならんとまで考えている。
野分
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
余はこの温泉場へ来てから、まだ一枚の
画
(
え
)
もかかない。絵の具箱は
酔興
(
すいきょう
)
に、
担
(
かつ
)
いできたかの感さえある。人はあれでも画家かと
嗤
(
わら
)
うかもしれぬ。いくら嗤われても、今の余は真の画家である。
草枕
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
「
苛
(
ひど
)
い事を……だって坊さんになるのは、
酔興
(
すいきょう
)
になるんじゃないでしょう」
虞美人草
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
ぐるぐる廻っているうちには、いつか自分の室の前に出られるだろうという
酔興
(
すいきょう
)
も手伝った。彼は生れて以来旅館における始めての経験を故意に味わう人のような心になってまた歩き出した。
明暗
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
私は
酔興
(
すいきょう
)
でむずかしい事を書くのではありません。むずかしい事が活きた兄さんの一部分なのだから仕方がないのです。二つを引き離すと血や肉からできた兄さんもまた存在しなくなるのです。
行人
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
そうして中に書いてある事が
嫉妬
(
しっと
)
なのだか、
復讐
(
ふくしゅう
)
なのだか、深刻な
悪戯
(
いたずら
)
なのだか、
酔興
(
すいきょう
)
な計略なのだか、
真面目
(
まじめ
)
な所作なのだか、
気狂
(
きちがい
)
の推理なのだか、常人の打算なのだか、ほとんど分らないが
彼岸過迄
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
その書物が一々違った色をしてそうしてことごとく別々な名を持っている。
煩
(
わずら
)
わしい事
夥
(
おびただ
)
しい。何の
酔興
(
すいきょう
)
でこんな差別をつけたものだろう、また何の
因果
(
いんが
)
でそれを大事そうに
列
(
なら
)
べ立てたものだろう。
満韓ところどころ
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
京の宿屋は何百軒とあるに、何で
蔦屋
(
つたや
)
へ泊り込んだものだろうと思う。泊らんでも済むだろうにと思う。わざわざ三条へ
梶棒
(
かじぼう
)
を
卸
(
おろ
)
して、わざわざ蔦屋へ泊るのはいらざる事だと思う。
酔興
(
すいきょう
)
だと思う。
虞美人草
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
人間は何の
酔興
(
すいきょう
)
でこんな腐ったものを飲むのかわからないが、猫にはとても飲み切れない。どうしても猫とビールは
性
(
しょう
)
が合わない。これは大変だと一度は出した舌を
引込
(
ひっこ
)
めて見たが、また考え直した。
吾輩は猫である
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
酔
常用漢字
中学
部首:⾣
11画
興
常用漢字
小5
部首:⾅
16画
“酔興”で始まる語句
酔興人