さすが)” の例文
四人も、四人も怪死したのか? 聴いていた宗方博士をはじめ、みんなさすがに顔色を変えたが、——新田進がふと金森村医を見ながら
廃灯台の怪鳥 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
祭壇に近い人々は、さすがに振向きもしなかつた。が、会葬者の殆ど過半が、此無遠慮な闖入者に対して叱責に近い注視を投げたのである。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
「なるほど、家内の身替りをね。ほほう、これは素晴らしい着想だ。さすがに烏啼天狗専門店の名探偵袋猫々先生だけのことはある」
これはさすがに露という季を入れていて、私にったクウシュウの心もちを述べたものでありまして、俳諧の規則にかなっております。
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
こうなって来てはさすがの鈴木大参事も兵力を用いるのやむをえないという事になって、一大隊ばかりもあった藩兵を東条少佐に率いしめて
鳴雪自叙伝 (新字新仮名) / 内藤鳴雪(著)
にもかかわらず、それでもまだ敵方との距離の推量に、さすがの彼すら過誤を抱いていたことが、それから寸刻の後に明白になった。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
春生も黙ってしまったが、さすがの畔柳博士も、万能探偵ではないと見えて、こんどは黙々として鷺太郎の話ばかりを聞いていた。
鱗粉 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
然し、間さん、さすがに貴方で御座いますのね、私敬服して、了ひました。失礼ながら貴方のお腕前に驚きましたので御座います。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
併し、さすがに晃一が居合わせる際なら、そう我儘も云うわけにはいかなかった。晃一に対してはまことに素直に振舞った。
勝敗 (新字新仮名) / 渡辺温(著)
一方吾々下飯台の方は、幾月にも斯様こんなお手柔てやわらかなこきつかわれ方に遭遇でくわさないので、かえって拍子抜がして、変てこだがさすがに嬉しさは顔やこなしに隠されぬ。
監獄部屋 (新字新仮名) / 羽志主水(著)
劇場地のストランドも、裏へ出ると、さすがに芝居の閉場はねる前は寂蓼を極めていた。薄霧のかかった空には、豆ランプのホヤを被せたような星が、朧に光っていた。
日蔭の街 (新字新仮名) / 松本泰(著)
おふくろは色消いろけしにつつむで置くべきボロまで管はずぶちまけと、お房はさすがに顏をあからめて注意を加へた。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
女房もさすがにその声を聞くとき嬉しからぬということなく、アイと素直に福茶を運び来て、「ねえお前さん、今夜こそは除夜の鐘を聞こうじゃありませんか。百八つでしたね」
残されたる江戸 (新字新仮名) / 柴田流星(著)
しかし、エノツク・アヽデンや、モウパツサンの小話や、さういふものと同じに見せかけておいて、それをあの結末のところでひつくり返した形は、さすがはこの作者だと思つた。
三月の創作 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
「あっしの真物ほんものの髷はたぼの中へ突っ込んで、叔母さんからかつらの古いのを貰って、付け髷を拵えて頭の上へ載っけて行きましたよ、——さすがに曲者も偽物にせものの髷とは気が付かなかった」
殊に勘次の申立もうしたてと符合致して居りますからさすがの名奉行にも少し分りかねました。
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
併し、さすがに、私は動悸の激しくなるのをどうすることも出来なかった。
祭壇に近い人々は、さすがに振向きもしなかった。が、会葬者のほとんど過半が、此無遠慮な闖入者ちんにゅうしゃに対して叱責しっせきに近い注視を投げたのである。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
ネブカドネットの大虐殺でさえ、恐らくこの惨状には及ばぬだろう……さすがに海の猛者もさたちも、この凄絶な光景には眼を外向そむけた。
流血船西へ行く (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
さすがの帆村も顔色をかえた。今の今まで、内務省の情報部を預るお役人だと思っていた木村なる人物が夢のように消えてしまったのである。
暗号数字 (新字新仮名) / 海野十三(著)
南京豆ばかりを食い散らしている下等な見物人と、おそろしいオーケストラとは、さすがのドリアンも堪え難かった。
月叟げっそう伝心——九度山の幸村ゆきむらは、あの時、権之助を一見すると、さすがにすぐ、権之助の人となりを知ってくれた。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さすが怜悧想りこうそうな、底光りのする眼付であった、次席に六尺近い、いい恰幅の、一寸関取と言いたい様な体格の所へ、真黒な頬髯を蓄えてる丈に、実に堂々たる偉丈夫だ
監獄部屋 (新字新仮名) / 羽志主水(著)
「あつしの眞物ほんものの髷はたぼの中へ突つ込んで、叔母さんからかつらの古いのを貰つて、附け髷を拵へて頭の上へ載つけて行きましたよ、——さすがに曲者も僞物にせものの髷とは氣が付かなかつた」
周三はえず此の事に就いて考えてゐた。雖然周三とてもさすがに世の中のなみあらいことを知つてゐた。で熱する頭を押へて、愼重しんちよう詮議せんぎする積で、今日けふまで躊躇ぐづ/″\してゐたのであつた。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
さすがの山鹿十介も、ビックリしたような声を上げた。
鱗粉 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
甘「さすがは交際官試補!」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
「偉い、さすがに無電技師だけあって観察が細いぞ、さすがの俺もそこ迄は気がつかなかった。——今度は全く君に手柄をてられたよ」
流血船西へ行く (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
自分の罵倒が、その的の本人に聴かれたと云ふことが、明かになると、青年もさすがに当惑の容子を見せた。が、彼は冷静に落着いて答へた。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
おそろしい宙釣ちゅうづりとなった。ぱたぱたと板のように硬い風が、丁坊のほほをなぐる。そして身体はゴムまりのようにゆれる。いまはさすがの丁坊も生きた心持がない。
大空魔艦 (新字新仮名) / 海野十三(著)
こればかりはさすがに離さない大きな刀を、又八は腰にさし、そして独りで唇を噛みしめた。
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さすがの銀座通りではあったが、行き交う人々はみんな身を竦めながら忙しそうにして歩いていた。井深君の如き純粋な散歩者は他には殆ど見当らなかったと云ってもいいに違いない。
(新字新仮名) / 渡辺温(著)
自分の罵倒ばとうが、その的の本人に聴かれたと云うことが、明かになると、青年もさすがに当惑の容子を見せた。が、彼は冷静に落着いて答えた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
だがもう呪文じゅもんの効き目はなかった。甚平は完全に催眠術から覚めてしまった。こうなっては万事休すだった。さすがの佐々砲弾も諦めて退散するより外なかった。
地球盗難 (新字新仮名) / 海野十三(著)
さすがに六兵衛もあきれた。折角ひとが世話をしようと云うのに騒がしくて女房の機嫌に障っては困るとは心臓の強い言葉だ——然し六兵衛も乗りかかった船だから
おもかげ抄 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「と、思いはしますが、聞くところに依ると、佐々木巌流というものは、さすがに稀れな天才らしゅうございます。殊に、細川家に召抱えられてからは、朝暮ちょうぼの自戒鍛錬たんれんは一通りでないとも聞き及びました」
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さう云つた夫人の顔は、さすがに緊張した。が、夫人は自分で、それに気が付くと、直ぐ身をかはすやうに、以前の無関心な態度に帰らうとした。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
さあ——この単刀直入的な問いには、さすがの僕もウムと呻ったまま、急に応えるべき言葉も見つからなかった。
深夜の市長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
アラブ種の名馬もさすがに泡を噛み、蹄で砂利じゃりを蹴散らしながら駈けに駈けた。——道は幾曲り、半島へかかった。と……向うの岩角を今や曲ろうとしている馬車
天狗岩の殺人魔 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
だがさすがに、すこし不安な色も見せて
濞かみ浪人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そう云った夫人の顔は、さすがに緊張した。が、夫人は自分で、それに気が付くと、ぐ身をかわすように、以前の無関心な態度に帰ろうとした。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
桂子はさすがに心弱い少女のこととて、次第に昂まる恐怖を抑えきれず、階段にかがんだまま身を震わせていた。
廃灯台の怪鳥 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
さすがの北鳴も、雷の遅い足どりを待ち侘びて、こらえ切れなくなったものか、櫓の上から活動写真の撮影機の入った四角な黒鞄を肩からブラ下げてブラリと町に出
(新字新仮名) / 海野十三(著)
さすがではある」
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「米国のロックフェラアいわく『人生は死に向って不断に進軍喇叭らっぱを吹いて居る』と、さすがは米国の大学者丈あって、真理を道破して居るようです……」
大島が出来る話 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
金属のたまのついたスイッチ・ヘッドを指先で摘んだ僕は、さすがに烈しい動悸を感ぜずにはいられなかった。
深夜の市長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
さすがに祐吉は緊張して、一歩一歩道を照しながら、教えられた松の木の方へ近寄って行く。と——その四五間手前で、一冊の小型な、汚い手帖が落ちているのをみつけた。
天狗岩の殺人魔 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
けれどさすが
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
殊に配偶に別れてからは、日も夜も足りないようにお西様へお参りをして居たから、その点では家内の人達にさすがはと感嘆させたほど、立派な大往生であった。
極楽 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「そうか、そうだったのか、——さすがにそこ迄はこの鹿谷も気付かなかったぞ、ふふふふ」
亡霊ホテル (新字新仮名) / 山本周五郎(著)