逸話いつわ)” の例文
このはなし但馬守たじまのかみが、與力よりきからいて、一そう玄竹げんちくきになつたのであつた。それからもうひとつ、玄竹げんちく但馬守たじまのかみよろこばせた逸話いつわがある。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
とお祖父さんは口癖のように仰有おっしゃる。家のものばかりでなく、碁の客謡曲うたいの相手までが三度に一度は愛孫の逸話いつわを拝聴させられる。
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
少将はほとんど、感傷的に、将軍の逸話いつわを話し出した。それは日露戦役後、少将が那須野なすのの別荘に、将軍を訪れた時の事だった。
将軍 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
それがめずらしいといって遠くから見物に来る人が多く、半瓦はんがわらの弥次兵衛という綽名あだながつけられて、大評判であったという逸話いつわも伝わっている。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
お綱の逸話いつわでは、煙草工場の女工カルメン組打の一場景に彷彿ほうふつとしたこんな話もあるのだ。
禅僧 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
高等学校寄宿舎内に起るいろいろな逸話いつわは早くから長吉のきもひやしているのであった。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
西暦せいれき一千八百六十六ねん墺普戰爭オーフツせんさうに、てき重圍じゆうゐおちいつたる墺太利軍オースタリーぐんいち偵察隊ていさつたいは、てきまなこくらまさんがため、密書みつしよをば軍用犬ぐんようけん首輪くびわして、その本陣ほんじん送皈おくりかへしたといふ逸話いつわがある。
あるとき千羽鶴の模様のある女生徒の着物を見て、得意そうに「この鶴、千ワせんわアリヤス」と言ったという逸話いつわが、この子にいつまでも附纏つきまとって、級友たちは「千ワ、千ワ」といって揶揄からかっていました。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
旅ゆきつつ勝負しようぶをしたるつよき逸話いつわこのおきなにはめづらしからず
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
まんじりともせずに聴いていてくれたのであるおよそかくのごとき逸話いつわは枚挙にいとまなくあえて浄瑠璃の太夫や人形使いに限ったことではない生田いくた流の琴や三味線の伝授においても同様であったそれにこの方の師匠は大概たいがい盲人の検校であったから不具者の常として片意地な人が多く勢い苛酷かこくに走ったかたむきがないでもあるまい。
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「無論作り話でございましょう。成功者の逸話いつわなんてものは後から拵えたものが多いですから」
ガラマサどん (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
高等学校寄宿舎きしゆくしや内におこるいろ/\な逸話いつわは早くから長吉ちやうきちきもひやしてゐるのであつた。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
わたしはいつもっていたことですが、滝田たきたさんは、徳富蘇峰とくとみそほう三宅雄二郎みやけゆうじろう諸氏しょしからずっとくだって僕等ぼくらよりもっととしわかひとにまで原稿げんこうつうじて交渉こうしょうがあって、色々いろいろ作家さっか逸話いつわっていられるので
夏目先生と滝田さん (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
半創成の畸形きけいな金魚と逸話いつわだけが飼育家仲間に遺った。
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
新聞に出ている先生の逸話いつわや、内外の人の追憶が時々問題になる。
葬儀記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
おわりに氏の近来きんらい逸話いつわを伝えます。