どおり)” の例文
兼太郎は返事に困って出もせぬ咳嗽せきにまぎらした。いつか酒屋の四つ角をまがって電車どおりへ出ようとする真直まっすぐな広い往来を歩いている。
雪解 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
信一郎は、ともすれば後退あとじさりしそうな自分の決心に、しきりに拍車を与えながら、それでも最初の目的どおり、夫人と戦って見ようと決心した。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
その母というのは自分の想像どおり、あまりらくな身分の人ではなかったらしい。やっとの思いでさっぱりした身装みなりをして出て来るように見えた。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
御嶽山おんたけさんを少し進んだ一ツ橋どおりを右に見る辺りで、この街鉄は、これから御承知のごとく東明館前を通って両国へ行くのである。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
わたくしが富士川游ふじかわゆうさんに借りた津軽家の医官の宿直日記によるに、允成ただしげは天明六年八月十九日に豊島町どおり横町よこちょう鎌倉かまくら横町家主いえぬし伊右衛門店いえもんたなを借りた。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
ルー・ド・パリ(パリどおり)というのだそうだ。誰が付けた名前だか知らないが、しゃれた付け方をしたものだ。
パリの地下牢 (新字新仮名) / 野上豊一郎(著)
與太郎はお才をつれて電車どおりの方へゆきますと、向うから、黒い毛皮のコートを着た奥さんがくるのを見つけました。與太郎は奥さんにお辞儀を一つして
たどんの与太さん (新字新仮名) / 竹久夢二(著)
そのために幾度も父に叱られたものである。夜、電車どおりを歩いていて、ひょいとこの恐怖が起って来る。
狼疾記 (新字新仮名) / 中島敦(著)
彼は道を曲ってテムプルへ入り、そして、高等法院どおりと書館どおりの鋪道を二囘ばかり歩調正しく歩いて元気を囘復してから、ストライヴァーの事務室に入って行った
あなたの御意見どおりにする気でいるのだ。8105
軒の柳、出窓の瞿麦なでしこ、お夏の柳屋は路地の角で、人形町どおりのとある裏町。端から端へ吹通す風は、目に見えぬ秋の音信おとずれである。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
が、ドアの外でお前が突然叫び出した声を聞くと、刀を持っていたわしの手が、しびれてしまったように、うしても俺の思いどおりに、動かないのだ。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
あくる日お千代は重吉に新聞の広告を見てもらって、銀座どおりあるカッフェーに行って見たが、最初の店では年が少し取り過ぎているからといって断られた。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ただし余は文部省の如何いかんと、世間の如何とにかかわらず、余自身を余の思いどおりに認むるの自由を有している。
博士問題の成行 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
矢島周禎の一族もまたこの年に東京にうつった。周禎は霊岸島れいがんじまに住んで医を業とし、優の前妻鉄は本所相生町あいおいちょう二つ目橋どおり玩具店おもちゃみせを開いた。周禎はもと眼科なので、五百は目の治療をこの人に頼んだ。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
これまでどおりにそのきれが、あなた方を6985
青年は死場所を求めて、箱根から豆相ずそうの間を逍遥さまよっていたのだった。彼の奇禍は、彼の望みどおりに、偽りの贈り物を、彼の純真な血で真赤に染めたのだ。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
ところで、天保銭吉原の飛行ひぎょうより、時代はずっと新しい。——ここへ点出しようというのは、くだんの中坂下から、飯田町どおりを、三崎町の原へ大斜めにく場所である。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
以前は浅草あさくさ瓦町かわらまちの電車どおりに商店を構えた玩具がんぐ雑貨輸出問屋の主人であった身が、現在は事もあろうに電話と家屋の売買を周旋するいわゆる千三屋せんみつやの手先とまでなりさがってしまったのだ。
雪解 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
殊勝な望だから、望どおりに遣って見るがい。
往来どめ提灯ちょうちんはもう消したが、一筋、両側の家の戸をした、さみしい町の真中まんなかに、六道の辻のみちしるべに、鬼が植えた鉄棒かなぼうのごとくしるしの残った、縁日果てた番町どおり
菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
慇懃いんぎんにいいながら、ばりかんを持って椅子なる客のうしろへ廻ったのは、日本橋人形町どおりの、茂った葉柳はやなぎの下に、おかめ煎餅せんべいと見事な看板を出した小さな角店を曲って
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
先生とうが、さにあらず、府下銀座どおりなるなにがし新聞の記者で、遠山金之助というのである。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
土地に大川どおりがある。ながれに添ったのではない。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)