這込はいこ)” の例文
お雪さんが、抱いたり、さすったり、半狂乱でいる処へ、右の、ばらりざんと敗北した落武者が這込はいこんで来た始末で……その悲惨さといったらありません。
木の子説法 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
窓と戸の障子しょうじ隙間すきまから寒い風が遠慮なく這込はいこんで股から腰のあたりがたまらなく冷たい時や、板張の椅子が堅くって疝気持せんきもちの尻のように痛くなるときや
倫敦消息 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
拍子木をどぶの中へ放り出して番屋へ這込はいこむなどと云う弱い事で、冬になると焼芋や夏は心太ところてんを売りますが、其の草履草鞋をく売ったもので、番太郎は皆金持で
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
してみればこれは傷の痛さに夢中で此処へ這込はいこんだに違いないが、それにしても其時は此処まで這込はいこみ得て、今は身動みうごきもならぬが不思議、或はられた時は一ヵ所の負傷であったが
おとらは兄夫婦が、汽車にも得乗えのらず、夏の暑い日と、野原の荒い風に焼けやつれたくろい顔をして、疲れきった足を引きずりながら這込はいこんで来た光景を、口癖のように作に語って聞かせた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「はあ、蚊帳を抱く大入道、夜中に山霧が這込はいこんでも、目をまわすほどおびやかされる、よくあるやつじゃ。」
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
此の田の中をずぶ/\入って此処こゝ這込はいこみやしたが、久しく喰わずにいたんで腹がいてたまりません、雪に当ったり雨に遭ったりしたのが打って出て、疝癪が起って、つい呻りました
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
このあわれむべき盲人めしいは肩身狭げに下等室に這込はいこみて、厄介やっかいならざらんように片隅にうずくまりつ。人ありてそのよわいを問いしに、かれ皺嗄しわがれたる声して、七十八歳と答えき。
取舵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
わざねむった振で、ぐう/\と空鼾そらいびきをかいて居りますと、廊下の障子をそっと音のしないように開けて這込はいこむ者を梅三郎が細目をひらいて見ますると、面部を深く包んで、しり端折ぱしょりを致しまして
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
すずきねる、ぼらは飛ぶ。とんと類のないおもむきのある家じゃ。ところが、時々崖裏の石垣から、かわうそ這込はいこんで、板廊下やかわやいたあかりを消して、悪戯いたずらをするげに言います。
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と恐る/\座敷へ這込はいこみ両手を突きまして
裏へ廻わると、ほころびた処があるので。……姉さんはしなよく消えたが、こっちは自雷也じらいやの妖術にアリャアリャだね。列子せこという身で這込はいこみました。が、それどころじゃあねえ。
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
舐廻なめまわって、ちょうど簪の見当の欄干の裏へ這込はいこんだのが、屈んだ鼻のさきに見えました。
怨霊借用 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
巡査まわり様が階子はしごさして、天井裏へ瓦斯がすけて這込はいこまっしゃる拍子に、洋刀サアベルこじりあがってさかさまになったが抜けたで、下に居た饂飩うどん屋の大面おおづらをちょん切って、鼻柱怪我ァした、一枚外れている処だ。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
土蜘蛛つちぐも這込はいこむ如く、大跨おおまたうねってずるずると秋草の根にからんだ。
露萩 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「ここでは欄干てすりから這込はいこみます。」
葛飾砂子 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)