迦陵頻伽かりょうびんが)” の例文
羽目はめには、天女——迦陵頻伽かりょうびんが髣髴ほうふつとして舞いつつ、かなでつつ浮出うきでている。影をうけたつかぬきの材は、鈴と草の花の玉の螺鈿らでんである。
七宝の柱 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
内壁は十二に区切られて、そこに、十二支の絵が淡彩で描かれてあった。中央の円の中には、天女が飛んでいる。迦陵頻伽かりょうびんがかも知れない。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
……どれ、だいぶ寒い思いをしたから、今夜は八瀬の傾城けいせいに会ってその極楽のふすまに、迦陵頻伽かりょうびんがの声でも聞こう。おさらば
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
話す言葉でまさに迦陵頻伽かりょうびんがで、これに比べられる声の美しい人を、レコードに吹込まれて残って居る、近代の名女優サラ・ベルナール以外に私は知りません。
法悦クラブ (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
迦陵頻伽かりょうびんがという鳥がとても綺麗な声で鳴くそうだが、キリスト教の天国は仏教の極楽とは違って花なぞ咲いていないから、そんな赤い花なぞ描くわけに行かぬ
お蝶夫人 (新字新仮名) / 三浦環(著)
それからその近所の山には百草もあればまた極楽世界の三宝をさえず迦陵頻伽かりょうびんが鳥も居る。その美しさと言えば
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
同じ舞ながらもおもてづかい、足の踏み方などのみごとさに、ほかでも舞う青海波とは全然別な感じであった。舞い手が歌うところなどは、極楽の迦陵頻伽かりょうびんがの声と聞かれた。
源氏物語:07 紅葉賀 (新字新仮名) / 紫式部(著)
だから極楽に生まれ、浄土へ行っても、自分独りが蓮華はすうてな安座あんざして、迦陵頻伽かりょうびんがたえなる声をききつつ、百飲食おんじきに舌鼓を打って遊んでいるのでは決してありません。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
千手の手紙には書き洩らしてあるけれども、其処には定めて迦陵頻伽かりょうびんがや孔雀や鸚鵡が囀って居るのであろう。硨磲碼碯しゃこめのうの楼閣や、金銀赤珠しゃくしゅの階道が築かれて居るのであろう。
二人の稚児 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
天竺雪山に棲む迦陵頻伽かりょうびんがもかくあろうかと思われる妙音で喨々と唄いつづけているのである。
魔都 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
珠運しゅうんも思いがけなく色々の始末に七日余り逗留とうりゅうして、馴染なじむにつけ亭主ていしゅ頼もしく、おたつ可愛かわゆく、囲炉裏いろりはたに極楽国、迦陵頻伽かりょうびんが笑声わらいごえむつまじければ客あしらいされざるもかえって気楽に
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
ふな後光の正式は飛天光という。天人と迦陵頻伽かりょうびんが、雲をもって後光の形をなす。その他雲輪光うんりんこう、輪後光、ひごの光明(これは来迎仏らいごうぶつなどに附けるもの)等で各々真行草しんぎょうそうがあります。余は略す。
一つ残った記念かたみだし、耳の遠い人だけに、迦陵頻伽かりょうびんがの歌のように聞きなすったのが、まあ! ないんでしょう。
高野こうやの奥の高野杉には、天上の鳥という頻伽びんがの声が、澄みぬいている。ここでは、下界でいうもずも、ひよどりも、あらゆる雑鳥も一様に迦陵頻伽かりょうびんがのさえずりであった。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
殊に、こののりの山に分け入って幾日、迦陵頻伽かりょうびんがにも似た中に心耳しんじを澄まし、血しおの酔いからめ、われとわが身にかえってみると、彼の胸には、菩提ぼだいを生じないではいられなかった。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
迦陵頻伽かりょうびんがの声ともきこえる山千禽やまちどりのチチとさえずるあした——根本中堂こんぽんちゅうどうのあたりから手をかざして、かすみの底の京洛みやこをながめると、そこには悠久ゆうきゅうとながれる加茂かもの一水が帯のように光っているだけで
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
次の間のとばりを引けば、当然、山僧が孤床こしょうの寝台は、五かい菩提ぼだいの夢、雲冷ややかなはずであるが、どうして、迦陵頻伽かりょうびんが刺繍ぬいふすま紅蓮ぐれん白蓮びゃくれん絵障屏えぶすまなまめかしく、巧雲は顔をたもとにくるんだまま
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
われを呼ぶ天上の迦陵頻伽かりょうびんがの声
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)