へん)” の例文
敬太郎は夜中に二へん眼をました。一度は咽喉のどが渇いたため、一度は夢を見たためであった。三度目に眼がいた時は、もう明るくなっていた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
金太郎は路傍の道しるべの石に片足をかけて、自轉車にまたがつたまゝ憩みながら、今ばんたつといふへん事をした。
坂道 (旧字旧仮名) / 新美南吉(著)
碌々ろく/\耳にも入ず適々たま/\の御無心と云殊には母のことなれば何樣どのやうにも都合して上度あげたきは山々なれども當暮たうくれは未だ掛先かけさきより少も拂ひが集まらず其外そのほか不都合だらけにてとんと金子は手廻り兼ればお氣の毒ながら御ことわり申ます勿々なか/\私し風情ふぜいの身にて人の合力がふりよくなど致す程の器量きりやうはなし外々ほか/\にて御都合成れよと取付端もなきへん答にお菊は
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
こんな事を聞いたり答えたり三四へんしているうちに、僕はいつの間にか昔と同じように美くしい素直な邪気のない千代子を眼の前に見る気がし出した。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
こんな問答もんだふ最初さいしよつきに一二へんぐらゐかへしてゐたが、のちには二月ふたつきに一ぺんになり、三月みつきに一ぺんになり、とう/\
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
余は口の中で、第二の葬式と云う言葉をしきりに繰り返した。人の一度は必ずやって貰う葬式を、余だけはどうしても二へん執行しなければすまないと思ったからである。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「なにうちてだものだから、毎日々々まいにち/\るものをあたらしく發見はつけんするんで、一しうに一二へん是非ぜひみやこまでしにかなければならない」とひながら安井やすゐわらつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
代助は子供の頃非常な肝癪持かんしゃくもちで、十八九の時分親爺と組打をした事が一二へんある位だが、成長して学校を卒業して、しばらくすると、この肝癪がぱたりと已んでしまった。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
もし帽子をかぶらない男が突然彼の行手を遮らなかったなら、彼は何時もの通り千駄木せんだぎの町を毎日二へん規則正しく往来するだけで、当分外の方角へは足を向けずにしまったろう。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「ちょっと失敬だが待ってくれ給え。さっきから伺っていると○○子さんと云うのが二へんばかり聞えるようだが、もし差支さしつかえがなければうけたまわりたいね、君」と主人をかえりみると
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
思うに一日生きれば一日の結構で、二日生きれば二日の結構であろう。その上頭が使えたらなおありがたいと云わなければなるまい。ハイズンは世間から二へんも死んだと評判された。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
圭さんは、何にも云わずに、平手ひらてで、自分の坊主頭をぴしゃぴしゃと二へんたたいた。
二百十日 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
余は茂る葉を見ようと思い、青き野をながめようと思うて実は裏の窓から首を出したのである。首はすでに二へんばかり出したが青いものも何にも見えぬ。右に家が見える。ひだりに家が見える。
カーライル博物館 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
始めて三千代にった時、三千代はただ御辞儀をしただけで引込んでしまった。代助は上野の森を評して帰って来た。二へん行っても、三返行っても、三千代はただ御茶を持って出るだけであった。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)