つら)” の例文
森成さんの御蔭おかげでこの苦しみがだいぶ退いた時ですら、動くたびに腥いおくびは常に鼻をつらぬいた。血は絶えず腸に向って流れていたのである。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
かれその天の日矛の持ち渡り來つる物は、たまたからといひて、珠二つら、またなみ比禮ひれなみる比禮、風振る比禮、風切る比禮、またおきつ鏡、つ鏡、并はせて八種なり。
「呉羽之介どの、片里どのの言葉ご用心なされ——学は古今に渡り、識百世をつらぬく底の丈夫ますらおなれど何をねてか兎角とかくおこないも乱れ勝ちな人ゆえ、この人の言うことなぞ信用はなりませぬぞ」
艶容万年若衆 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
何にも面白くないと言位の人物にて麻布あざぶに三次郎しばに勘左衞門赤坂に此長助と三人の公事ずき家主なり此長助にはのぞむ所の出入なりと直樣すぐさまお光が力となりしはお光か貞心ていしんつらぬく運と言も畢竟ひつきやう天より定りて人を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
天部てんぶつらぬくはげしさに
全都覚醒賦 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
つらぬく 光
秋の瞳 (新字旧仮名) / 八木重吉(著)
眼を移して天井てんじょうを見る。周囲一尺もあろうと思われる梁の六角形にけずられたのが三本ほど、楽堂をたてつらぬいている、後ろはどこまで通っているか、かしらめぐらさないから分らぬ。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
一つのすねくわえて左右から引き合う。ようやくの事肉は大半平げたと思うと、また羃々べきべきたる雲をつらぬいて恐しい神の声がした。「肉の後には骨をしゃぶれ」と云う。すわこそ骨だ。
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼は今日こんにちまで何一つ自分の力で、先へ突き抜けたという自覚をっていなかった。勉強だろうが、運動だろうが、その他何事に限らず本気にやりかけて、つらぬきおおせたためしがなかった。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
先まで見渡すと、鉄色の筋が二本えない草の中を真直まっすぐつらぬいている。しかし細い筋が草に隠れて、行方知ゆきがたしれずになるまで眺め尽しても、建物らしいものは一軒も見当らなかった。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
七条から一条まで横につらぬいて、けぶる柳の間から、ぬくき水打つ白きぬのを、高野川たかのがわかわらに数え尽くして、長々と北にうねるみちを、おおかたは二里余りも来たら、山はおのずから左右にせまって
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
熱い熱いと云う声が吾輩の耳をつらぬいて左右へ抜けるように頭の中で乱れ合う。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
さうして其縞がつらぬきながら波を打つて、互に寄つたり離れたり、かさなつてふとくなつたり、割れて二筋ふたすぢになつたりする。不規則だけれども乱れない上から三分一の所を、広い帯で横に仕切つた。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)