話頭わとう)” の例文
「お延の返事はここにある」といって、綺麗きれいに持って来た金を彼に渡すつもりでいた彼は躊躇ちゅうちょした。その代り話頭わとうを前へ押し戻した。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
辰子は姉の予想したよりもはるかに真面目まじめに返事をした。と思うとたちまち微笑びしょうと一しょにもう一度話頭わとうを引き戻した。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
大王は話頭わとうを改めて「あなたがチベットに居った時分に誰にもあなたの日本人であるということを告げなかったか」
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
勝手かつて氣焔きえんもやゝくたぶれたころで、けだ話頭わとうてんじてすこしたたゞれをいやさうといふつもりらしい。
日の出 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
○去年の春であったか、非無という年の若い真宗坊さんが来てはなしているうちに、話頭わとうはふと宗教の上に落ちて「君に宗教はいらないでしょう」と坊さんが言い出した。
病牀苦語 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
話頭わとうてん、信義なき対人圏にあつて、芸術家が何を得るとしても何れは僅かなものである。
詩と現代 (新字旧仮名) / 中原中也(著)
「ところで、そのかんじんな仮面めんの事になりますが——」と、釘勘はここで話頭わとうをかえて
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この両人は途中の話頭わとうによって、おたがいに行く先の暗合を奇なりとして驚きました。
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そこで私は今度は、長吉自身の身の上に、話頭わとうを転じて行きました。
湖畔亭事件 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
これは化物になるところまで行かぬ、話頭わとうの作り事なのであろう。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
彼は初めから、話頭わとうをそこへもってくるつもりだったらしい。
竹柏記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
大原は何か話頭わとう惹出ひきいだしてお登和嬢を引留めたし
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
平次はいきなり話頭わとうを転じました。
話頭わとうは酒をあらたむるとともに転じて
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
これが始めて彼女の口をれた挨拶あいさつであった。話頭わとうはそのお土産を持って来た人から、その土産をくれた人の好意に及ばなければならなかった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
譚は大声に笑った後、ちょっと真面目まじめになったと思うと、無造作に話頭わとうを一転した。
湖南の扇 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
と、果心居士かしんこじはふかくもいわず口をにごして話頭わとうてん
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
小山はき折とてぐに話頭わとうを向け
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
平次は話頭わとうを転じました。
それを平生の細心にも似ず、一顧の掛念けねんさえなく、ただ無雑作むぞうさ話頭わとうに上せた津田は、まさに居常きょじょうお延に対する時の用意を取り忘れていたにちがいなかった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
宗助そうすけ其所そこ無理むりにこぢけるほどつよ好奇心かうきしんたなかつた。したがつてをんな二人ふたり意識いしきあひだはさまりながら、つい話頭わとうのぼらないで、また週間しうかんばかりぎた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
金の問題にはそれぎり触れなかったが、毒にも薬にもならない世間話を何時までも続けて動かなかった。そうして自然天然話頭わとうをまた島田の身の上に戻して来た。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「とにかく痛い事だろう」と圭さんは話頭わとうを転じた。
二百十日 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)