見納みおさ)” の例文
そうそうわたくし現世げんせ見納みおさめに若月わかつき庭前にわさきかせたとき、その手綱たづなっていたのも、矢張やはりこの老人ろうじんなのでございました。
「一ことも残さずすっかりだ、畜生!」とジョンは答えた。「これを厭だというなら、あんた方はわしの見納みおさめで、後は鉄砲だまをお見舞みめえするだけだ。」
また、若き人たちの血気けっきを、ことなかれと、きょくりょくおさえめていた伊那丸いなまる民部みんぶも、なんのくろうなく、大講会だいこうえ行事ぎょうじ見納みおさめしたにちがいない。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それが女学生姿のミチミの見納みおさめだったのだ。そのときはそんなことはちっとも知らなかった。
棺桶の花嫁 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ちまきを祝ったりするのを楽みにしている間に——彼はわざとばかり菖蒲しょうぶの葉をかけたこの軒端も見納みおさめにするような心でもって、すでにすでに高輪を去ろうとする心支度を始めていた。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
いつ見納みおさめになっても名残惜しい気がしないように、そして永く記憶から消失きえうせないように、く見覚えて置きたいような心持になり、ベンチから立上って金網を張った垣際へ進寄すすみよろうとした。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
はじめてヴィタリス親方が、わたしを休ませてくれた場所に着いたので、わたしはあのときこれが見納みおさめだと思ったその場所から、バルブレンのおっかあのうちをもう一度見下ろすことができた。
下足札げそくふだそろへてがらんがらんのおともいそがしや夕暮ゆふぐれより羽織はおりひきかけて立出たちいづれば、うしろに切火きりびうちかくる女房にようぼうかほもこれが見納みおさめか十にんぎりの側杖そばづえ無理情死むりしんぢうのしそこね、うらみはかゝるのはてあやふく
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「ちょうど、深川の水に六年住んで、今夜が見納みおさめかと思うと、何だか、名残なごり惜しいけれど……」
春の雁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
みぎうたうたおわるとともに、いつしかわたくしからだくる波間なみまおどってりました、そのときちらとはいしたわがきみのはっとおどろかれた御面影おんおもかげ——それが現世げんせでの見納みおさめでございました。
ひょっとするとこれを神戸の見納みおさめとしなければ成らないような遠い旅に上るべき時が来た。そろそろ夕飯時に近い頃であった。船まで見送ろうという友人や民助兄と連立って岸本は宿屋を出た。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)